2022年6月 先行指標からの経済状況確認

最近は急激な物価上昇による経済への悪影響がより意識されてきており、2022年6月16日(日本時間)にFRBが0.75%の利上げを決定するなど、物価上昇を抑えるための劇的な金融引締めがリセッションを招くのではないかとの不安も強まり始めた。

そこで4月にも行ったようにいくつかの先行指標を確認しつつ、次のリセッションがどれくらい近づいてきているのか、投資戦略としてはどのようなものが考えられるのかを検討してみたいと思う。

主要先行指標の確認

長短金利差と実質金利

10年債利回りと2年差利回りのスプレッドは、現在のところは何とかプラス圏にて先週の取引が終わった形となっている。

しかし、より細かくみてみると6/13以降には何度かマイナスに入ることもあり、長短金利差は将来のリセッションを示唆しているといえるだろう。

年後半にかけては、政策金利が継続的に上昇してくることはほぼ確実となっており、短期債利回りもそれに合わせて上昇が続くことは間違いないだろう。それが将来のリセッションをより確実なものと印象付ければ長期金利の上昇は止まり、長短金利差のマイナス幅は今以上に広がってくるだろう。

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System

また、金利上昇の企業収益への影響という意味では、今まで長期間にわたってマイナスであった米国の実質金利が急騰し、しっかりプラス圏にはいったことで金利上昇による収益への悪影響や、一部企業の財務リスクの高まりとしてあらわれてくることが予想できる。

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System

ミシガン大学消費者信頼感指数

2022年6月の速報値では50.2と歴代最低値をつけており、米国の消費者のマインドが劇的に悪化していることがわかる。

ミシガン大学消費者信頼感指数の数字だけでいえば、既にリーマンショック時と同水準か若干低いところにおり、今後もFRBの金融引締めによる金利上昇(それに伴うクレジットカード金利や住宅ローンの金利上昇)、長引く物価上昇により、消費者マインドが持ち直すのは難しい状況が続きそうである。

ミシガン大学消費者信頼もチャートで確認しておく。こちらはFREDで取得できる5月までの確報値をチャートにしたものである。

ここまで下げてきて未だに下げ止まりや持ち直しの兆しがみえていない。

Data Source : University of Michigan retrieved from FRED

航空機除く非国防資本財受注

設備投資の先行指標となる本指標では、前月比での伸び率が弱まり始めているようには見られるものの、前月比でのマイナスが続いていたり、頻繁にみられる状況でもないことから、景気後退を示唆するようなことはないと思われる。

しかし、現在の金利上昇が企業の資金調達コストを引き上げることは間違いなく、それがこの指標からも読み取れるようになってきた場合には注意が必要となろう。

Data Source : U.S. Census Bureau

建設許可件数・着工件数

住宅関連の先行指標であるこれらの指数は、直近では前月比で落ち込みがみられるものの、明確な減少トレンドとなっているわけでもないため、現在のところはこれらの指標も景気後退を示唆するものではない。

しかし、米国の住宅ローン金利は急騰しており、フレディマックによれば30年固定の住宅ローン金利は平均で5.78%となっている。住宅価格の上昇とローン金利の上昇によって、より住宅購入の負担は大きくなってくることであろうことから、4月時点でも書いたように年後半に建設許可件数や着工件数に明確な落ち込みがみられてくるのではないかと思っている。

Data Source : U.S. Census Bureau

新規失業保険申請件数

特に問題はみられない。チャートだけ載せておきます。

Data Source : U.S. Employment and Training Administration

先行指標総評

全体としては4月に比べれば景気後退の不安感が高まってきたことは間違いないと思われる。

前回に比べれば急速なFRBの金融引締めの継続も確実なものとなり、それが今後多くの経済先行指標を悪化させる可能性も高まった。又、その他の先行指標で言ってもISM PMIの新規受注などには低下傾向がみられてきている。

そして、物価上昇も金融引締めも家計のマインドを悪化させることはほぼ確実であることからも経済成長の重石になってくることも間違いないだろう。

投資戦略について

投資戦略や投資対象のアセット選定において認識しておくべき前提として以下のものを挙げておく。

  • インフレ率の高止まり
  • FRBの劇的な金融引締め・政策金利の上昇
  • ウクライナ・ロシア戦争問題の長期化

この3つの要素は今年の後半も続いてくトピックであることはまず間違いないだろう。
ウクライナ・ロシア戦争については、停戦こそあるかもしれないが、ロシアへの経済制裁が年内に改称されることはなく、欧州のロシアへの依存度を下げようとする動きも変わらないであろうことから、ウクライナ・ロシア戦争”問題の長期化”として認識しておくべき前提としている。

まず、ウクライナ・ロシア戦争問題による欧州諸国のロシア及びロシアからのエネルギー輸入への依存度低下の動きは変わらない、ロシアとしても欧州へのエネルギー輸出を減らす動きは変わらないと思われ、欧州におけるエネルギー価格の高止まりとそれによる経済への大きな悪影響は今後も続くものと予想される。

このことからバリュエーションが魅力になってきたとしても欧州株式への投資は非常に慎重にならざるを得ない。

次に米国を中心としたインフレ率の高止まり、FRBの金融引締めについてであるが、これらは高止まりもFRBの金融引締めについても継続する可能性が非常に高いだろうが、市場としてもほぼほぼ織込み済みとなってきたものと考えられる。

そのため長期債は政策金利・短期債利回りの上昇を反映しての上昇はあろうとも中長期的な景気後退懸念の織込みにシフトし始めるものと考えられることから、年後半は長期債ETFの買いタイミングが出てくるものと引き続き予想している。

名目金利でいえば、10年債や20年債、30年債の利回りは2018年の最高値を超えてきている。
実質金利でみれば、10年TIPS利回りが0.89%ほどまで上昇してきており、2018年のピークを越えるにはいたっていないものの、債券利回りが魅力的な水準に近づいてきているものと思われる。
10年TIPSの利回りが1.0%を明確に抜けたくらいからその時のインフレ状況をみつつ検討をはじめるくらいでいい気がしている。

株式に関しては、現在の物価上昇と金融引締めに続く景気後退がどれだけ企業利益、EPSを毀損することになるかが読みにくいが、バリュエーションでみれば実績値からもとめるPERは下がってきており、魅力的な水準が近づいてはきている。

一方でPSRやPBRは依然として高い水準にあるため、これらも魅力的な水準になるまで待つとなると相当辛抱強く待たないといけないかもしれない。PERだけでも魅力的な水準になってきたところで景気後退に注意しつつ、市場感応度の低いディフェンシブセクターを中心に少しづつ買いを入れていくことが現実的かもしれない。