金融機関で進むヒューマンレス
- 2021.09.12
- 金融商品・サービス
セルフレジにみられるように、小売業を中心に省力化・省人化が進み、移動・運送についても自動運転技術の開発が注目を集めており、世の中は急速にヒューマンレスへと向かっている。
金融機関もその例外ではなく、むしろ自動運転などに比べれば、はるかに速い勢いでヒューマンレスの時代が近づいていると考えらえる。
金融サービスの自動化状況
リテール金融
まず、BtoCのリテール金融をイメージしてみる。
窓口で行われていた入出金がATMで自動化されるようになってからは久しいが、もはやキャッシュレスの波が押し寄せ、ATMの存在、現金管理の必要性さえもなくなりつつある。
残高の管理はもちろん、送金などの決済や投資信託・ETF、株式の売買、外貨預金取引などの各種資産運用関連取引のほとんどオンライン・バンキング上で行うことができるようになった。
又、口座開設についても以前であれば来店して手続きすることが一般的であったが、今はアプリや金融機関のサイト上で手続きが完結するものが多く、これに関しても店舗の人間は不要になっている。
(金融機関の戦略上の問題によってか口座解約はオンラインで完結できない場合が多いが、、、)
もちろんITリテラシーの乏しい人間が残っており、そういった方々がコールセンターや店舗を必要としていることはある。しかし、デジタルネイティブが増える世の中で、時代遅れの消費者にコストのかかる手厚いサービスを提供し続ける必要性はなくなってくることは間違いない。
又、一般的な窓口で行われている現金取引や送金手続き、小口顧客の運用ニーズについては、金融機関にとっても継続したところで金にならないことが多く、ヒューマンレスにして人件費を削減したいとの思惑もある。
こうのようにみてみれば、自動化できる地合いも整っており、金融機関の省力化意向からして今後急速に金融サービスのヒューマンレス化が進むものと思われる。
金融機関の内部プロセス・市場部門のヒューマンレス化
まず、顧客取引の自動化、セルフ化による派生的なものだが、フロント・店舗での取引が減少する、なくなるということは、その取引を承認するような管理職が不要になる。
金融機関は一つの取引もミスの内容に何人もの目で確認することが一般的だが、その必要性が一挙になくなるわけである。
また、送金や変更手続きなどの処理については集中処理担当部署に依頼し、店舗のバックレス化が進んでいる。
今までは受けた送金依頼等をある程度店舗で処理してきたもののインプットなどを集中処理部署で行うものである。
これは完全なヒューマンレス化ではないが、省力化という意味で人員削減に寄与している。
リテール金融の自動化からくる派生的なものだけでなく、市場部門でも自動化はおきている。
「ゴールドマン・サックスの株式トレーダーが600人から2人に」といったニュースがあったように、身近なリテール店舗以外でも自動化の波が押し寄せている。
為替取引に関しても、顧客から注文を受けた際にリスクをヘッジする ためのカバー取引を行うが、これもディーラーが行うのではなく、システムで自動カバーするところもある。
このようにトレーダーやディーラーの担ってきた業務もシステムにとってかわられてきている。
融資関連プロセスの自動化
これに関しては、まだ技術が完全にととのい、完全自動化が採用されるという段階ではないが(特に保守的な日系金融機関にとっては)、住宅ローンなどの融資審査業務もシステム的に行われようとしており、審査業務にもヒューマンレス化が近づいている。
住宅ローン審査にしろ、法人への貸し出し審査にしろ、信用力判断プロセスの中でシステム的に行うことができる部分は少なくなく、完全に人が介在しない状況までは時間がまだまだかかるかもしれないが、省力化が進んでいくことは間違いないだろう。
又、住宅ローンの申込み(審査依頼)については、ネット上で申し込みができる金融機関も増えてきており、従来のように店舗で何枚も書類を書く必要がなくなりすすある。
申込みから審査プロセスまで次第に人の手が必要なくなってきているといえる。
運用商品・保険など金融商品取引の自動化について
こちらは別途詳細に考えてみたいと思う。
まず、運用商品については、そのほとんどがネット上で取引できるようになっており、十分にヒューマンレス化が進んでいる分野といえる。
特別に人間のスタッフが必要になる運用商品としては、富裕層向けのオーダーメイド型の運用サービスや私募仕組債といったものに限られてくるだろう。
これらは一般の小口顧客向けではないため、非常に限られた特別な分野についてのみ人が必要な程度である。
その他には、保険商品については、ネットのみで契約できるものも増えてきているが、現時点では対面でなければ契約できないものも少なくなく、まだ保険販売員がいくらか必要な状況にある。
もっとも、通常必要と思われる定期保険などシンプルなものはネット契約もできる状態にあるし、今後もラインナップは増えていくであろうことから、保険商品の販売に関してもヒューマンレス化が進むことに間違いないだろう。
(保険も余計なものが非常に多いため、売り子がいないほうが消費者にとっても都合がいいだろう)
以上の通り、運用商品や保険商品の販売についてもほとんどは売り子がいらなくなっていることがわかるし、売り子は個人投資家のリターンを奪う存在になることも少なくなく、非常にいいながれだと思われる。
(売り子は目標達成のための無駄な回転売買や常に相場に強気なことをいい投資タイミングを考えないことがすくなくない。必要なのはセールスではなくアドバイザーであるが、しっかりしたアドバイザーが小口個人投資家につくことはないだろう)
実際のヒューマンレス化の動き
顕著な動きとしては、店舗・拠点の削減がある。
インターネットバンクの普及に伴い、金融機関への来店顧客数の減少しているなかで、コストカットの効果も大きいことから急激に進んできており、メガバンクとしても有人店舗及び人員の削減を加速させる考えである。
三井住友銀行は、店舗数は維持しながらも400店舗のうち300店舗ほどを個人コンサルティングに特化したコンパクトな店舗に移行する計画を打ち出している。メガバンクの中では唯一店舗数は維持する考え。
三菱UFJ銀行は、500以上あった店舗を2023年末までに300店舗ほどまで削減する計画をもっている。
もちろん人員削減計画もセットである。
みずほ銀行も店舗削減方針であり、450以上ある店舗から段階的に100以上の店舗を削減する方針でいる。
狙いはもちろんコストカットだが、上で触れてきた通り、もはや店舗に来店する必要性の多くは失われており、店舗や人員がなくとも取引できる環境ができているのだから、過大な店舗網(及び人員)はただの荷物でしかないと考えられる。
基本的にはヒューマンレス、店舗レスで、一部の金になる富裕層向けなどを有人チャネルで取り扱うような方針になってくるものと思われる。
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