2022年11月1日 先行指標からみる米国経済状況

依然として高水準のインフレ率や急速に進む政策金利上昇によって、住宅関連指標や消費者信頼感指数等のソフトデータの状況は来年以降の景気後退を示唆し続けている。

1か月ぶりの先行指標を中心に米国経済の状況を確認しておきたいと思う。

主要先行指標の確認

長短金利差と実質金利

長短金利差は10年債2年債利回りの逆転に加えて、10年債利回りと3ヵ月債利回りも逆転するにいたった。長短金利差の逆転は過去の景気後退をほぼ正確な予兆として機能してきたこともあり、米国経済の景気後退可能性がより一層高まったと考えてよいだろう。

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System

実質金利は上昇を続けており、1.7%を超えるような動きとなっている。
しかし、クレジットスプレッドの推移をみる限り、まだ企業の信用リスクを急激な上昇を引き起こすような状況にはなっていない。

ただ、企業の資金調達コストを上昇させることは間違いないく、投資活動に影響が出てくることは間違いないだろう。実際のことろ米国GDP上ではすでに民間投資は低調な結果となってきている。

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System

ミシガン大学消費者信頼感指数

直近のミシガン大学消費者信頼感指数は現況指数が改善の一方で期待指数は悪化となっているが、いずれも低水準にあることに変わりはない。

CBの消費者信頼感指数も悪化、ISM製造業景況指数(及びその新規受注指数)に悪化がみられていることから、ソフトデータが全般的に悪化傾向にあり、現在の物価上昇・金利上昇の経済状況のなかで消費者心理も企業心理も悪化していることが示されている。

Data Source : University of Michigan

航空機除く非国防資本財受注

設備投資の先行指標となる本指標では、9月は前月比でマイナス成長となったが、継続的にマイナスとなっているわけではなく、これだけでは設備投資等の将来の落ち込みを確信するには足りないだろう。

しかし、現在の金利状況やISM製造業景況指数の悪化を考慮すれば、今後資本財受注に悪化がみられる可能性が高いと思われ、当該指標が将来の景気悪化を示し始めるのも時間の問題のように思われる。

Data Source : U.S. Census Bureau

建設許可件数・着工件数

住宅ローン30年固定金利が7%を超えるまでに上昇しており、建設許可件数・着工件数をはじめ、新築住宅販売件数や中古住宅販売件数等のその他の住宅指標も軒並み不動産市場の悪化を示唆している。

住宅ローン金利の上昇を考えれば、今後も住宅販売は伸び悩むものと思われ、不動産/住宅市場は悪化が進むだろう。販売件数の伸び悩みによって不動産価格の下落を続くものと思われ、逆資産効果による消費への影響にも注意したいところである。

Data Source : U.S. Census Bureau

Data Source : Freddie Mac

新規失業保険申請件数

小さな動きはみられるが、新規失業保険申請件数からは労働市場の明確な悪化は読み取れない。
JOLTS求人数に悪化がみられ始めてきているものの、人手不足・低失業率の状況に変わりはなく、失業者が増加するような状況にはない。

Data Source : U.S. Employment and Training Administration

先行指標全体の解釈と運用方針

長短金利差や実質金利といった金利関連要因や消費者信頼感を中心に将来の景気後退が近いことを示唆するものが多く、景気後退が近づいているという見方は変わらず。

住宅ローンの上昇傾向も変わらず、住宅購入をあきらめる人の増加も継続するものと思われ、賃貸への需要が高まるだろう。住宅価格の低下が家賃等にも波及するにはこの移行の中では時間がかかると思われ、引き続きCPIの住宅関連費用は上昇傾向が継続、来年以降になってから住宅価格の下落を反映しつつCPIの住宅関連費用に下押し圧力を加えることになるのではないかと思われる。

原油価格もピークアウトしたものの高止まりの状況が続いており、CPI総合指数が下がりにくい状況が続いており、来年前半までの米国政策金利の引き上げは継続、政策金利が5%弱までは上昇していくことだろう。
そう考えると、金利上昇トレンドの状況はほとんど変わらずといえ、最近の米国株式の回復はベアマーケットラリーにすぎないと思っている。バリュエーション的にも自信をもって割安といえるような状況でもないことから、引き続き最低でも3400付近までの下落を期待したいと思っている。

債券については、長期債ETFは引き続きタイミングをみつつ買い増していく方針で変更する必要はないように思われる。