【米国雇用統計】2021年11月分の労働市場詳細確認

今回の非農業部門雇用者数は予想の55万人を大きく下回り21万人と予想よりは弱い結果となったが、一方で失業率は予想の4.5%に対して4.2%まで低下し、失業率だけでいうのなら完全雇用の水準まで改善したと考えられよう。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

失業率及び就業者比率

前述の通り失業率は予想を大きく超える改善を見せた。
失業率だけでいえば、完全雇用水準まで改善したものと考えられそうである。

就業者比率に関しては、プライムエージだけでみてもコロナショック前の水準にはまだ届いていないが、2017年の水準までは回復している。

これだけの改善がみられれば、本来の金融政策は緩和的なものではないはずだが、現在のFRBはテーパリングを開始したとはいえ依然として金融緩和を継続しており、これが完全雇用水準以上の、潜在成長率以上の経済成長を続けさせる要因になっていると考えられる。

しかし、完全雇用水準以上の状況では賃金や物価が上がり続け、それは金融緩和の終了時に経済成長率を潜在成長率の水準まで押し下げる要因となるものと考えられるし、それを先送りにすればするほど、その修正の悪影響は大きなものになる恐れがある。

現在の失業率の水準とCPIやPCEデフレーターが示すインフレ率は、その修正時の悪影響を終えさえるためには、FRBが早く金融緩和を終わらせる必要があることを示唆しているのではないだろうか。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

失業理由詳細

失業に占める被解雇者の割合は低下しており、一方で労働市場への復帰者はコロナショック前の水準を超えるに至った。

失業率の低さに加えて失業理由の内容からも、職を求めている人は基本的には職を見つけることが十分にできる労働市場状況となっているのだろう。

失業理由の分類は下記を参照。

  • 被解雇者(Job Losers) : 会社都合の一時解雇、解雇
  • 退職(Job Leavers) : 自己都合の退職者
  • 契約期間満了(Completed Temporary Job) : 一時的な/臨時の仕事を終えた場合
  • 労働市場への復帰者(Re-entrants) : 再度職探しを始めた人(not-in-labor-forceからの復帰を意味する)
  • 新規参加者(New Entrants) : 新たに職探しを始めた人

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

週給・時給、その他関連データ

平均週給及び平均時給は前回に続いて上昇幅を拡大した。

現在の人出不足の状況が賃金を押し上げ続けており、これは原材料費・エネルギーの上昇に加えて、賃金の上昇によってコストプッシュインフレーションに拍車をかけると考えられる。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

一方で実質賃金の観点でいえば、物価上昇ペースが非常に強く、はやいことからマイナスの状況が続いている。
(下記チャートは2021年10月まで)

現在の想定以上の物価上昇は一般家計の負担にもなっているものと思われ、バイデン政権への不満の高まりやバイデン大統領の支持率の低下の一つの要因にもなっていると思われる。

この状況が続けば、政権側からも中央銀行へのテーパリングペースの加速圧力がかかるかもしれない。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

平均週間労働時間については今回も特に目立った動きはなかった。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

現在の労働市場から見る金融政策

上述の通り、現在の失業率は完全雇用の水準まで低下しており、プライムエージの就業者比率も金融緩和の継続を肯定するような水準にはない。

賃金上昇ペースや就業者比率の状況からして、今回の雇用者数が予想を下回ったことを持って雇用者側の労働需要が弱まったとは思えず、依然として強い労働市場の回復が続いているものと考えられる。
(数日後にJOLTSがそれを確かであることを示すだろうと予想)

また、FOMCメンバーやパウエル議長が想定していたよりも強く、持続的なインフレ率やそれに拍車をかけるような人手不足と賃金上昇を考慮すれば、FRBは現在の計画よりもはやくテーパリングを終わらせ、利上げに進む必要があるだろう。

数か月前から当ブログでは利上げは2022年後半と予想していたが、それが2022年半ばに利上げが前倒しになってもおかしくはないと思えてきた。(テーパリング終了が春に前倒しになるのであれば、それが終了後の2022年の前半?)

市場でもそのような考え方は多くなってきている。

仮にテーパリングや利上げを今までFRBが想定していたような非常に慎重なペースで行えば、完全雇用状況で更なるインフレが進み、潜在成長率を超えた一時的な、幻想的な経済成長が長く続くことになるだろうが、それは金融緩和が続く間のものであり、その周生期には大きな痛みを伴うことになると思われる。

これを避けるためにもはやいFRBの行動が必要だろう。

また、これも上でふれたが、インフレ率の上昇とともにバイデン大統領の支持率が低下しており(ワシントン・ポストとABCテレビが11/14に発表した世論調査結果では41%)、これは政権側からパウエル議長とFRBにはやい行動を暗に促すことにつながる可能性があろう。

パウエル議長も現在の強い物価上昇圧力が一時的なものでないこと、テーパリングペースの加速の可能性には言及しており、これの実現には政権側も経済界も肯定的な考えを持っているのではないだろうか。