労働市場・雇用関連の経済指標の種類と解釈

投資対象を決めるために経済分析をする際に非常に重要な雇用統計等の労働市場関連の経済指標が多く存在するが、それらをまとめて、それぞれどのように解釈するべきかを考えてみたいと思う。

雇用関連

失業率や雇用者変化、求人数など多くの雇用関連の指標があり、それらが非常に注目されていることは言うまでもない。

米国の雇用統計は、経済指標の中で最も注目される指標だといえる。

それぞれ重要なことに変わりないが、景気サイクルの中でどのような動きをするのかは指標によって違いがあり、それらを理解したうえで解釈することが非常に重要である。

失業率

最も重要な雇用関連指標の一つ。

失業率 = 失業者数 / 労働力人口

労働力人口(就業者と働く意思のあるが職に付けていない失業者の合計)のうち失業者が占める割合が失業率である。

この指標の重要なポイントとして、
そもそも働く意思のない者、職探しをあきらめてしまった者はこの指標の計算に含まれない
(この働く意思のない人たちは英語でnot in labor forceと呼ばれる)

このことから、景気が急激に悪化するようなことがあり、多くの人が職探しをあきらめてしまった場合には、失業率には反映されないこととなるため、失業率だけをみていると労働市場の悪化を過小評価してしまう可能性が考えられるわけである。

景気回復局面においては、職探しをあきらめていた人たちが再度職をさがしてみようかと労働市場に戻ってくる動きがみられるが、これは今まで失業率の計算には含まれていなかった人たちがnot in labor forceから働く意思のある失業者に代わることを意味しているため、一時的に失業率の悪化や回復が見られない時期がみられることがある。

これも失業率だけを見ていては、労働市場への復帰者の増加いった望ましい動きに気付かずに労働市場の回復を過小評価してしまうおそれがある。

以上のように失業率は労働参加者の変化による影響を受けることから、景気や労働市場のサイクルに対しては遅れて動く遅行指標であると考えられる。

見てきた通り、失業率だけをみていては、労働市場を正しくとらえられないことがあるため、正確な労働以上の理解のためには労働参加率や就業者比率、失業者の失業理由などもあわせてみることが重要である。

失業の種類

一口に失業といってもいくつかの種類がある。

  • 循環的失業:景気サイクルによる失業
  • 摩擦的失業:転職時など職を変える際の一時的な失業
  • 構造的失業:経済構造の変化による求職者と求人とのスキル等のミスマッチによる失業

日頃のヘッドライン等でいわれる失業は基本的には循環的失業のことを指している。

摩擦的失業は転職を前提としたものなどマイナス要因を伴うというよりは、一時的には発生しても仕方のない失業といえる。

構造的失業は経済構造の変化とそれに伴う必要とされるスキル等の変化によって求人と求職者の間にミスマッチが起こり、景気変化とは違った経済構造上の変化によってもたらされる失業である。

構造的失業についても景気が悪いといった問題ではない。

失業理由の種類

  • 被解雇者(Job Losers) : 会社都合の一時解雇、解雇
  • 退職(Job Leavers) : 自己都合の退職者
  • 契約期間満了(Completed Temporary Job) : 一時的な/臨時の仕事を終えた場合
  • 労働市場への復帰者(Re-entrants) : 再度職探しを始めた人(not-in-labor-forceからの復帰を意味する)
  • 新規参加者(New Entrants) : 新たに職探しを始めた人

上述の通り、労働市場への復帰者の増加は本来望ましいことだが、失業率の回復を鈍化させるように作用することがある。

就業者比率 (Employment to Population Ratio)

失業率の説明の際に失業率は労働参加率の影響を受けるため、労働参加率も併せてみる必要があるとしたが、就業者比率は労働参加率も考慮したうえで、労働市場が改善しているか否かをみることができる。
(就業者比率と訳しているが、就業率がこれを示すこともある。しかし、Employment Rateが就業者/労働力人口というものもあり、失業者/労働力人口が失業率なら就業率というとEmployment Rateを指すように思えてならない。このことから当ブログではEmployment to Population Ratioを就業者比率としている)

主な雇用関連指標の計算式は以下の通り。

失業率 = 失業者 / 労働力人口

労働参加率 = 労働力人口 / 生産年齢人口

労働力人口 = 就業者 + 失業者(働く意志がある人)

就業者比率 = 就業者 / 生産年齢人口

このように就業者比率は生産年齢人口のうち就業者の割合がどのくらいかを示す。
失業率が分母に働く意思のない人たち(not-in-labor-force)を含まないのに対して、こちらの指標はそれも含む生産年齢人口としていることから、労働参加率の低下は就業者比率を下げる要因となり、誤った解釈をせずに済む。

失業率の場合は失業者が労働力人口に含まれなくなるマイナスな動きを失業者の減少と失業率の低下として表面上プラスのように見えてしまうことがあることは前述の通りである。

より失業率、労働参加率、就業者比率の関係をわかりやすくするために下記のように形式を書き換えることができる。

就業者比率 = 労働参加率(就業者/生産年齢人口) × (1-失業率)

就業者比率 = 労働参加率 × 就業者労働力人口比率

賃金・労働コスト関連

賃金や全体の労働コストは将来の消費やインフレの見通しを立てるために非常に重要な経済指標となる。

供給要因のインフレーションであるコストプッシュインフレと言えば、原油等の資源価格の上昇に起因するものをイメージしがちだが、賃金は生産上の最も重要なコストであり、これもまたコストプッシュインフレの要因となる。

時にはwage-push inflationといった呼び方も使われるほどである。

その賃金や労働コスト関連の指標もいくつかあり、それぞれの指標で細かい解釈や理解の仕方が異なるため、違いを理解して利用する必要がある。

労働生産性

労働者の生産量、効率を表す指標だが、景気サイクルの動きには失業率よりも早く手がかりを提供してくれることがある。

景気の動きにあわせて企業は雇用を拡大したり、解雇をしたりする前に、既存の従業員の労働時間を増減させたり、生産量を増やしたり抑えるえたりするように指示を出す。

つまりは景気悪化時は解雇の前に、生産量も抑えるように指示を出し、従業員の時間当たりの生産量・労働生産性を低下させることになると考えられる。(平均労働時間等も同じく減少がみられると考えられる)

反対に景気拡大期には既存従業員で増加する受注を裁こうとするため、労働生産性の上昇という形でそれが現れる可能性がある。

平均週間労働時間

米国雇用統計とともに発表されることの数字は労働生産性と同じような手掛かりを提供してくれる。

上述の通り、景気サイクルの中で企業は新規雇用や解雇に先立って既存従業員の働き方を変化させることで景気の変化に対応しようとするため、その動きが労働時間に反映されてくるもののと考えられる。

今日のコロナショックで見られたような急激な一時解雇の増加とその後の人手不足といって劇的な変化の中、これだけを手掛かりにすることはできないが、重要な情報を提供してくれることには変わりがない。

人手不足の状況を図るうえでも役に立つタイミングがあるかもしれない。

平均週給・平均時給

米国では米国雇用統計と同タイミングで発表される。

こちらも非常に注目される数字であり、今後のインフレや消費の見通しを立てるうえで重要な指標である。

労働コストは企業にとっても非常に大きなコスト要因であり、これが失業率の低下や人手不足によって継続的に上昇を続けれるようであれば、そのコストの商品への転嫁によって物価を上昇させる要因となる。

これは賃金上昇圧力によるコストプッシュインフレととらえることができる。

又、実質的にはインフレ率の状況にもよるが賃金上昇は家計の可処分所得を増加させることとなるため、将来の消費拡大とそれに伴う物価上昇といった需要面からのインフレにつながる可能性もある。

ことのように供給側、需要側とルートは時々によって違うだろうが、物価とは非常に強い関係があることから、@インフレ見通しを立てるうえでは必ず確認しなければならない経済指標といえるだろう。

単位労働コスト (Unit Labor Costs)

単位労働コストは、時間当たりの総労働報酬を時間当たりの生産で除したもの。

ここでの報酬はcompensationであり、賃金(wage)とその他給付(benefits)を合計したものを指す。

賃金等の情報から将来のインフレ見通しを立てる際に、仮に賃金が上昇していたとしても、その上昇が生産性の向上に沿ったものであれば、それはインフレに寄与するような賃金上昇圧力はないと考えることもできるため、賃金と生産性の両面をみることが重要である。

そのような場合に、総報酬と生産との比率である単位労働コストは、その両面をあわせて理解するのに有用である。

単位労働コストの上昇は報酬の上昇圧力が生産性の向上に比べて強いことを意味するため、労働市場の逼迫、それに伴う物価上昇を示唆している可能性がある。