2022年7月 主要各国のインフレ状況まとめ

主要国が急激な物価上昇を止めようと金融引締に奔走してはいるものの、物価上昇率は勢いを保ち続けている。

日本でもCPIの前年比伸び率が2%を超えたままの状況が続いており、今後もより広範な商品の物価上昇、強い物価上昇がみられるものと考えられている。

そんな経済や金融政策に重大な影響をもたらしている各国のインフレ状況について再度確認をしていきたいと思う。

主要先進国中央銀行の物価目標

今回もインフレ状況をみていく前に主要先進国の中央銀行が持つ物価目標を確認しておく。

  • 米国:2%(Flexible average inflation targeting)
  • EU:2%前後
  • 日本:2%
  • 英国:2%
  • 豪州:2~3%
  • NZ:1~3%
  • カナダ:1~3%

これらの主要国・地域のインフレ率はすでに目標を大きく超えてきている状況にある。
基本的にはインフレ率が各インフレ目標に戻ってくるまで金融引締が強まっていくと考えてよいだろう。

各国のインフレ状況

米国のインフレ状況

米国の6月のCPIは季節調整済み総合で前年比9%、コアCPIが前年比5.9%の伸びとなった。

コアCPIの前年比での伸び率は4月以降鈍化を始めてはいるが、前月比でみれば引続き堅調な上昇となっているし、ヘッドラインでみればエネルギー・電力や食品価格の強い上昇によって上昇の勢いが増してさえいる。

項目別にみても電気料金や食品価格、住所関連費など家庭にとって欠かせないものの価格が上昇を続けており、今後も消費者信頼感や家庭の消費の重しとなってくることが予想される。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

PCEデフレーターに関しても基本的にCPIと同じような動きとなっている。

Data Source : U.S. Bureau of Economic Analysis

PPIに関してもCPIと同じような傾向がみられるが、こちらは前月比でみれば若干上昇ペースが鈍化しているようにもみえる。しかし、前月比にしろ前年比にしろ上昇の勢いは依然として強いままであり、まだこの鈍化をもってして物価上昇の落ち着きを期待することは尚早に思われる。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

Euro Areaのインフレ状況

ユーロエリアとその各主要国のインフレ率は米国に比べれば低いものの、コアHICPの上昇ペースは引き続き加速している。

ウクライナ・ロシア戦争の長期化とロシアからのエネルギー供給減少・停止リスクからエネルギー問題がさらに悪化し、エネルギー価格の急騰がおこれば、HICP総合はもう一段の急激な上昇も考えられよう。

ECBは思ったより早いペースで政策金利を引き上げてきたものの、現在の供給制約やエネルギー価格を考えると、どこまで効果が出てくるか懐疑的にみておくほうがよいと思う。

ユーロエリアの失業率はまだ低いもののエネルギー価格は高止まりした状態が続くだろうことから、経済的にはその他の先進国・地域に比べて厳しい状況が続くと思われる。

Data Source : Eurostat

日本のインフレ状況

日本のCPIは引き続き日銀が目標にしている2%を上回るペースで上昇している。
これは日銀が重要視している生鮮食品を除くCPIについても同じであり、これらは年内もう一段ペースが加速することも予想される。エネルギー価格の高止まりも長期化し、それによる光熱費の上昇や、輸送コスト上昇による物価上昇が今後も続くだろう。また、日銀に動きがみられないこともあり、円安状況は秋以降も続く(これ以上円安が加速するとも思っているわけではないが、円が急激に増価することも難しい状況が続く)だろうことから、食品価格等の上昇圧力も高まり、一般家計の購買力を引き下げることになるだろう。

現在のインフレ状況を受けてても、日銀としては、需要拡大を背景等した物価上昇ではなく、エネルギー価格上昇等によるコストプッシュインフレであるため、引続き経済緩和を維持することで需要や経済を支えていく必要があるとしている。

しかし、現在の大規模金融緩和(マイナス金利、債券購入、イールドカーブコントロール、ETF・REIT購入)は、リーマンショックやコロナショックといった異例の経済ショックに対する異常な緩和規模であり、それを経済成長がある程度弱いとはいうものの凡そ平常に戻った現在にいたっても長期間続けていることは異常であろう。

むしろ黒田総裁率いる日銀が頑固にならなければ、この物価上昇率を理由としてETF購入やイールドカーブコントロールにいくらかの修正を加える絶好のタイミングであろうと思われ、今後の物価上昇が強まる中でそれがみられるのか期待したい。

Data Source : 総務省統計局

イギリスのインフレ状況

イギリスのインフレ状況は米国よりも深刻な状況になりつつある。

ウクライナ・ロシア戦争からのエネルギー価格上昇圧力に加えて、「レッド・エクストリーム」と呼ばれる記録的な熱波による電力需要の急激な拡大による電力価格上昇圧力もあり、イギリスのエネルギー・電力価格の上昇は深刻な状況にある。(参考記事

また、Brexit後の労働力不足に加えて、EUとの物流もスムーズにいっていないようであり(参考記事)、Brexitの影響もインフレ状況を悪化させている。

Data Source : Office for National Statistics

オーストラリアのインフレ状況

引き続きオーストラリアのインフレ状況は米国はイギリスの状況に比べればいくらか穏やかな状況にある。

RBAの物価目標に比べれば高い状況にあるため、引き締め傾向は続くと思われるが、米国に比べれば緩やかなペースでの引き締めになるものと思われる。

ただし、物価上昇ペースに減速の兆しはみえていないため、今後さらに加速しないかには注意が必要になるだろう。

Data Source : Australia Bureau of Statistics

ニュージーランドのインフレ状況

ニュージーランドのインフレ状況も米国やイギリスに比べればわずかながらには弱いが、オーストラリアに比べれば非常に高い状況にある。
項目的にもほとんどの項目で上昇ペースに減速の兆しはみられないため、今後も金融引締が続くものと思われる。オーストラリアよりも引締めペースははやいか?

Data Source : Stats NZ

カナダのインフレ状況

カナダCPIの前年比伸び率は米国のそれに比べればわずかながらに低い状況であるが、カナダの場合にはコアCPIの上昇ペースに鈍化がみられていないという点では、米国と同程度に深刻な状況とも推測できる。

Data Source : Statistics Canada