【米国雇用統計】2022年9月 米国労働市場の詳細確認

今回の雇用統計は、雇用統計の前に発表されたJOLTSの求人数が予想よりも大きく減少していたこともあり、労働市場の緩みが示唆されるのではないかと注目されていたが、結果としては、雇用者数はほぼ市場コンセンサス通りの結果となった。
一方で失業率は予想よりも大きな改善がみられ、労働市場は引き続きタイトであることを示唆するヘッドラインとなった。

非農業部門の雇用者数:26.3万人(予想:26.4万人)
失業率:3.5%(予想:3.7%)

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

失業率と就業者比率

失業率は予想に反して改善が見られ3.5%へと改善がみられたが、就業者比率については悪化がみられており、今回の失業率の低下は労働参加率の低下によるものといえるだろう。

そのため、今回の失業率の改善が最も望ましい形で低下したわけではないことを示唆している。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

失業理由の詳細

失業理由の内容をみてみると、前回増加していた被解雇者の割合(及びそのうち一時解雇者でないものの割合)は今回減少に転じており、また、失業者における労働市場への復帰者の割合は増加となっており、失業理由の構成からは労働市場の底堅さがうかがえる結果となった。

また、JOLTSの求人数の低下がみられる中でも、自主的な退職は多く、良い条件を求めた強気な労働者が多いこともうかがえ、賃金の上昇が続くことを示唆していると考えられよう。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

失業理由の分類は下記を参照。

  • 被解雇者(Job Losers) : 会社都合の一時解雇、解雇
  • 退職(Job Leavers) : 自己都合の退職者
  • 契約期間満了(Completed Temporary Job) : 一時的な/臨時の仕事を終えた場合
  • 労働市場への復帰者(Reentrants) : 再度職探しを始めた人(not-in-labor-forceからの復帰)

週給・時給とその他関連データ

週給および時給の前年比伸び率は、若干の鈍化がみられるものの、高水準での推移が続いていることには変わりない。上述の通り自主的な退職者も多い状況が続いていること、非常に低い失業率からして、当面は賃金上昇率は高水準を保つものと思われる。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

しかし、実質賃金の伸び率(8月時点)はマイナス圏が続いており、高水準のインフレが消費の大きな妨げにならないか引き続き懸念される。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

JOLTSの内容確認

今回は雇用統計に加えてJOLTSの求人数等のデータもあわせて確認しておく。

JOLTSの求人数は減少傾向が続いており、労働市場がわずかながらにも緩み始めたのではないかと話題となった。しかし、依然として求人数は非常に多い状況に変わりはなく、堅調な雇用統計とあわせて考えれば、このJOLTSの求人水準がFRBの引締めペースを減速させることはないだろう。

また、離職者数についても高水準が続いており、人手不足を背景に強気に職探しをする労働者が多いことがうかがえ、賃金上昇が続くと思われる。インフレ率を下げるために賃金上昇率を低下させることが重要であることを考えれば、これもFRBの引締めペースの減速がすぐにはこないことを示唆しているといえよう。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

雇用統計を受けての政策見通し

上述の通り、JOLTSの求人数からは労働市場に若干の緩みが生じていることがみられるが、賃金上昇率を低下させるためには十分ではなく、FRBの引締めペースは減速する段階にはないだろう。

年内には11月に75bpsと12月に50bpsの政策金利引上げという市場でよくいわれているシナリオ通りの動きになると思って問題ないと考えている。

JOLTSの結果を受けて、利上げ原則期待から上昇していた株価は再び下落を再開し、S&P 500は近いうちに3500ポイントの節目をトライする展開となるのではないだろうか。
来週のCPIが予想を超えるようなことがあれば、それがきっかけになるかもしれない。

また、原油価格の再上昇によってCPI総合指数の低下ペースが鈍化するとすれば、強い労働市場とエネルギー価格の想定以上にしつこい高止まりを受けて、来年前半も現在のはやいペースで利上げが継続する可能性が高まっているだろう。

そうした場合、このペースでの急激な利上げが金融システム側の何かを壊し、景気後退とインフレ率低下を招くことになる恐れもあろう。