2023年2月 米国の経済及びインフレ状況 ~強まるインフレ圧力と日本への影響~

2月はじめに1月分の雇用統計が市場予想をはるかに超える強さを示してから、それに続く経済指標は軒並み予想を超えるものが続いており、金利引き上げペースの再加速リスクが認識されるようになってきた。

物価関連指標も例にもれず予想を超える数字が出てきており、米国の金融政策変化を通じて今後の市場動向に大きな影響を与える恐れが出てきたことから、一度米国の経済状況をまとめて確認しておきたいと思う。

米国のインフレ状況

インフレの現状確認

CPI及びPPIの数字はグラフをみればわかるように、予想よりもインフレ率が低下しなかったものの、鈍化傾向が続いていることに変わりはない。PPIに関しても低下傾向はしっかり続いているため、インフレ率がピークアウトしたとの認識を変える必要もないだろう。

世界的な需要減と供給制約が緩和されるなかで、物の(財の)価格上昇率は急速に低下しており、このトレンドは現在も続いている。

住居費用も今後低下がみこまれることから、今後の問題は上昇が止まらないサービス価格といえる。
これへの対処に関しては、賃金上昇が止まらない限りには抑制することは難しいと思われ、需要を減少させるためにリセッションを覚悟した金融引き締めが必要になってくるのではないだろか。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

CPIやPPIの伸び率が低下傾向を続ける一方でPCEデフレーターに関しては、先月から上昇率が拡大した。
今回の動きだけをみてインフレペース鈍化のトレンド転換を意味するわけではもちろんないが、FRBが最も重要視している物価指標だけに、この指標が予想通り下がらないことはFFレートが予想以上に引き上げられることにつながる恐れがある。

Data Source : U.S. Bureau of Economic Analysis

インフレの要因分解

まず、サンフランシスコ連銀が提供しているPCEデフレーターの供給要因と需要要因の要因分析についてみてみると、ヘッドラインとコアともに供給要因による上昇率は低下しているものの需要要因による上昇が拡大している。

これは供給制約が和らいでいる一方で、需要が思うように減少していないことを示しており、インフレ率抑制のためには追加の金融引き締めが必要であることを意味している。

Data Source : Federal Reserve Bank of San Francisco

アトランタ連銀の提供している弾力的CPI(Flexible CPI)と粘着的CPI(Sticky CPI)では、弾力的CPIは前年比ベースでしっかりとした低下傾向にあり、粘着的CPIも住居費を除けば安定的に低下してきている。

一方で3ヵ月年率で見た場合には、インフレ率低下が止まっている。2%の物価目標達成のためには、金融引締ペースを鈍化させるには早かったことを示しているのかもしれない。

Data Source : Federal Reserve Bank of Atlanta

主要ハードデータ

米国の経済指標はソフトデータを中心に弱まっていたが、ここにきて雇用統計、小売売上高といった主要なハードデータが大きく予想を上回ってきた。数か月連続でその流れが続いているわけではないため、今後もこの強い数字が続くのかみていく必要があるが、2月に出てきた主な経済指標は軒並み強いことから、米国経済は思った以上に過熱感があると思っておいていいだろう。

特に雇用統計と違って、数字に悪化の見られていた小売売上高に大きな上昇がみられたことは、米国経済の想定以上の底堅さを示したものと考えられ、インフレ率の低下ペースも思ったものより遅くなると思わせるような結果である。

Data Source : U.S. Bureasu of Labor Statistics

Data Source : U.S. Census Bureau

金利及び中央銀行資産

主要な経済指標が予想を大きく超える結果となったことから、想定以上の利上げが考えられ始めており、米国国債利回りは長期部分も含めて上昇に転じた。

また、予想インフレ率(BEI)及び実質金利もあわせて上昇しており、10年ものTIPSの利回りは再び1.5%を超えた。

6ヵ月及び1年の名目金利は5%を超えてきており、2023年前半にFFレートが5.5%まで引き上げられることを十分に織り込み始めている。

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System (US)

前回の雇用統計の記事で言及したとおりに債券投資に関しては、雇用統計発表後に長期債ETFのウェイトを軽くしていたが、10年債利回りが4%に近づいてきたこともあり、買いに転じてもいいタイミングと思っている。

また、短期債利回りについても5.5%を超えるような動きになれば、長期債ではなく短期債購入も購入の魅力が出てくるだろう。

中央銀行のバランスシート

FRBはバランスシートの縮小を続けているが、現在のインフレ率、経済指標の強さをみていると、縮小ペースは遅すぎるくらいのものである。

コロナ禍で2倍以上に膨らんだFRBのバランスシートの縮小ペースの遅さが物価上昇率を抑えることを難しているとみることもできるだろう。

Data Source : FRB, ECB, BOJ

日本経済への影響

日銀及びその関係者たちは、安定的に物価目標2%を達成するために緩和を継続すると唱え続けているが、一方で2%を超えたCPIの上昇が1以上続くことはほぼ確実となってきている。

上述の米国経済指標の強さは、金利差策代を通じて円安圧力を強める要因となっている。
USDJPYは130.00の大台を割り込んでいた状況から急激な再上昇をみせ、136円台を回復した。

この大きな円安は輸入物価の上昇に大きく寄与することになり、日本の消費者の購買力をさらに毀損することにつながる。そして、エネルギー価格の高止まりも相まって大幅な貿易赤字の継続、国際収支からの更なる円安圧力といった悪い流れが継続しかねない。

この状況を緩和・改善できるのは現状日銀くらいであり、植田氏が”安定的な”物価目標の達成などといった曖昧な言葉で遊んでいる中央銀行関係者のお仲間になることがないように祈るばかりである。