日銀の政策転換と日本経済の行く末

日銀の利上げと多少の政策転換によって、日本円の通貨価値は増価、輸入物価を抑制させることとなるだろう。
この金利引上げによるインフレ抑制は人手不足とともに実質賃金上昇率を一時プラスに転じさせることだろう。
しかし、景気後退に陥っている日本経済は更なる痛手を被ることになる。
物価上昇とマイナス成長から賃金上昇とマイナス成長へと移り変わる。
賃金上昇と聞こえは良いが、成長や需要拡大を伴うものではなく、単なる人手不足によるものであり、更に悪いことに、日本の社会構造上その恩恵は高齢者達に搾取され奪い取られ、労働者・一般家庭の疲弊は止まない。

そして、米経済をはじめとする世界的景気後退・低成長が日本経済を更に沈めにやってくる。
その時、日銀は、他国の金利も下がり、自国経済を回復させるために再び緩和方向へと舵を切ることが求められることだろう。
しかし、日銀にできることはほとんど何もない。
政策金利を僅かに25bp引き下げることだけである(マイナス金利が役に立ったと日銀が信じているのであれば、それも彼らの選択肢には上がろうが、実際のところ有効な手段でないことは明らかである)。

中央銀行が有効策を持っていないために、経済回復は他国に比べて遅れることとなるだろう。
そうなれば、再度金利差の拡大から通貨価値下落に悩まされることになる。
だが、日銀は動けない。
日本の財政は低成長と高齢化を背景に更に悪化しており、通貨価値防衛のための金利引上げは今以上に困難な状況に陥っているためである。

高齢化による民間貯蓄の取り崩しは貿易赤字の拡大を加速させる。
ISバランスの観点からだけでなく、少なくともシルバー民主主義を止めることができないと仮定するのであれば、海外からの医薬品等の輸入は増加し、人手不足よって輸出は減少する。
後は、更に国内に帰ってくることのなくなった所得収支が黒字として表面を飾ることになろう。

日銀は上記景気サイクルの中で日本経済・社会が更に悪化することを指をくわえて見ているしかない。
日銀は今回の調整タイミングについて失敗することで当面の役目を終えた。
この問題に対処するのは、政治・行政側が社保改革等を通じた財政状況の改善と、高齢者に浪費され消散する資金を労働者の下にとどめ、労働意欲・生産性改善の好循環を作り上げることであろうが、認知症寸前の老人政治家にそれを望むことはできないだろう。
ともすれば、日本の未来として遅かれ早かれやってくるものは通貨価値防衛の限界を迎えての実質的財政破綻ということになろう。

ともすれば、現在の米ドル安はその未来に備える素晴らしい機会であると考えられる。
少なくとも人的資本が円建てで構成されている一般の日本人労働者にとって、金融資産をできる限り外貨建てにし、人的資本と金融資産の通貨ポジションをできる限りスクエア(為替変動によって全体価値が影響を受けない状態)に近づけるよう努力をすることには価値があるだろう。