2022年1月 各国のインフレ状況まとめ

ここ日本でも携帯電話料金の大幅値下げの影響を除けば、昨年後半には日本のコアCPIも2%近辺まで上昇するなど、世界的な物価上昇の流れはデフレ国家日本にまで押し寄せるほどになった。

米国や欧州の物価上昇がはるかに深刻な状況は言うまでもないだろう。

状況も短期間で大きく変わってきているため、再度各国のインフレ状況をまとめておきたいと思う。

主要先進国中央銀行の物価目標

インフレ状況をみていく前に主要先進国の中央銀行が持つ物価目標を確認しておく。

  • 米国:2%(Flexible average inflation targeting)
  • EU:2%前後
  • 日本:2%
  • 英国:2%
  • 豪州:2~3%
  • NZ:1~3%
  • カナダ:1~3%

これらの物価目標を超える非常に高いインフレ率であれば、それだけ早い利上げやテーパリングが想定されることとなる。

各国のインフレ率の現状

米国

CPIがヘッドラインでは7%超え、エネルギーや食品を除いたコアでも5%を超えるなど物価目標を大きく超えた物価上昇が続いている。

FRBが最も注目しているコアPCEデフレーターでみても物価目標を大きく超えた伸びとなっており、FRBの利上げやバランスシートの縮小が間も無く必要になることは間違いなさそうである。

パウエル議長もタカ派的な考えになってきたようなので、USDは非常に魅力的だろう。

Data Source: U.S. Bureau of Labor Statistics

PCEデフレーターの上昇とまらず、いずれの主要項目も強い上昇をみせている。

Data Source : U.S. Bureau of Economic Analysis

Euro Area

米国と同じようにEuro Areaの主要国も高いインフレ率に見舞われている。

総合指数、コア指数ともに米国に比べれば若干低いが、ドイツのCPI総合指数は前年比で6%ほどの上昇、コアでも4%ほどの上昇をみせている。

経済回復や消費といった経済の強さを背景とした根強い物価上昇圧力に関しては、米国に比べて弱いと思われるが、既にマイナス金利を適用しているECBがそのマイナス幅を縮小させるような動きに出てもおかしくはないだろう。

又、ウクライナでの地政学リスクの高まりからエネルギー高騰の不安感も大きい。

特にNATO諸国が強調してロシアに制裁を課すこととなった場合には、ロシアから欧州へのエネルギー供給の停止、それに伴う天然ガスの急騰といったリスクが想定される。

欧州は米国に比べて非常に大きなロシアからの報復制裁リスクを負っているといえる。

地政学要因が金融政策決定の決め手になるとは思っていないが、資源価格の急騰からくる実体経済への影響には注意を払うひつようがあるだろう。

日本

長年インフレリスクとはほぼ無縁であった日本にも物価上昇の影響が見えてきた。

最も経済の拡大、需要・消費の拡大を背景としたいいインフレではなく、資源等の高騰を背景としたコストプッシュインフレーションであり、喜べる内容ではない。

しかし、携帯料金を除けばCPIが前年比で2%ほどの成長をみせるほどにはなっており、この状況が続けば、日銀も超緩和的な政策を多少なり引き締める必要に迫られるものと思われる。

緩和をやめるとすれば、ETFやREITの買い入れを止め、マイナス金利からゼロ期金利へと移行というのが基本的な流れにはなるだろう。

このペースの物価上昇が続けば、はやければ年内後半にも緩和縮小の動きがあってもおかしくはないと個人的には考えている。

イギリス

イギリスのインフレ率はおおよし過去30年の最高値にまで上昇しており、この強い物価上昇圧力への対応として中央銀行の引き締めは急務のように思われる。

項目別にインフレ率をみても全ての項目で強い上昇が確認できる。

イギリスについてはEU脱退に伴う労働者不足→労働者確保のための賃金・雇用コストの増加による物価への影響もあろうことから、その他の欧州諸国に比べても物価への対処は大きな課題となるだろう。

通貨取引に関しては、利上げペースは早そうではあるものの、経済状況等わからないことが多く感じ、GBPは触りたくない。

Data Source : Office for National Statistics

オーストラリア

RBA(オーストラリア準備銀行)の物価目標が2~3%と他の中央銀行より高めであり、

そのRBAがインフレ率判断として利用している刈込平均CPIの前年比はまだ物価目標上限の3%を超えるには至っていない状況である。

その他の主要先進国のインフレ率が物価目標を大きく上回っている状況に比べれば、利上げの必要性は低く、利上げペースも素早いものである必要はなさそうである。

Data Source : Australia Bureau of Statistics

期待インフレ率も併せてみておく。

常に高いインフレ期待を持つ消費者層以外では概ね3%に収まる範囲での予想となっており、市場関係者のなかでインフレリスクへのパニック的な動きはみられない。

Data Source : Australia Bureau of Statistics

ニュージーランド

NZのCPIも前年比6%ほどの水準まで上昇。

物価目標上限の3%を大きく超える状況となっている。

この物価上昇を受けて2022年2月のRBNZの政策決定会合では50bps(0.50%)の利上げもあるのではないかと期待されはじめており、2023年半ばまでには7回分(0.25bps)の利上げがあるのではなかとの予想がでてきている。

既に利上げを開始してきたうえでこの水準にあり、現在のインフレ率と物価目標とを比べてみてもオーストラリアよりははやい利上げが必要になるものと考えられよう。

又、今年もチャイナリスクが出てくる局面もあるかと思うが、その際にはNZDに比べてAUDのほうが影響を受けることが多いと考えられることから、利上げペースやその他のリスクから考えてAUDNZDのショートは検討の余地があると考えている。

Data Source : Stats NZ

カナダ

カナダのインフレ率は米国に比べれば若干低めであり、物価目標も上限レンジが3%と米国に比べれば高めではあることから、物価目標の乖離は比較的小さい(あくまでも米国との比較において)

しかし、物価目標の上限レンジを超えた物価上昇が継続していること、テーパリングにもはやい段階で開始していたうえでの数字であることを考えれば、カナダについても米国と同じように政策金利を引き上げることになることは変わりない。

CADについては利上げと原油高の恩恵を受けそうである。

Data Source : Statistics Canada

その他新興国等のインフレ状況

トルコ

インフレ時の利上げなど、金融政策の愚策とそれによる通貨安の加速から、トルコのインフレ状況は救いようがない状況になっている。

トルコの中央銀行が利上げをしなければならないことは間違いないが、利上げをしようものなら中央銀行の議長がエルドアン大統領に更迭されるような状況であるため、まともな金融政策は期待できない厳しい状況が続いている。

(イスラム金融では利息・金利をとるようなことはよくないものとされていることがエルドアン大統領にこのような行動をとらせているのだろうか?)

Data Source : TCMB

中国

中国はCPIこそ安定しているもののPPIは10%を超えており、消費者への価格転嫁は進んでいないのかもしれないが、中国も他国と同じようにインフレリスクにさらされている。

Data Source: China National Bureau of Statistics
*こちらのデータは発表月での表示あり観察月での表示ではありません。

主要先進国・新興国のインフレ状況

最後に主要先進国と新興国のインフレ状況をまとめてみておく。

どうしてもトルコのインフレ率の高さが目立ってしまうが、全体としてほぼ例外なく物価上昇圧力の強まりが観察でき、世界的に物価上昇の影響を受けていることがわかる。

コロナ禍以降もいくつかの国で軍による政権転覆があたが、物価の上昇、特に食品価格の上昇が続けば、今後も新興国を中心に政権や国内情勢が大きく悪化する国が増えそうである。

Data Source : OECD