2023年1月 主要各国のインフレ状況まとめ
米国をはじめ複数の主要国でインフレ率にピークアウトの兆しが見え始めてきた。
しかし、依然として各国中銀の物価目標を大きく超えている状況にあり、どのくらいのタイミングで各国中銀が金融政策の転換をはかるのか、それによるリスクアセットの変動を考えるうえで、2023年もインフレ状況を注視することが非常に重要な状況が続いている。
今回も2023年1月時点で確認できる主要国のインフレ状況をまとめて確認していきたいと思う。
主要先進国中央銀行の物価目標
今回もインフレ状況をみていく前に主要先進国の中央銀行が持つ物価目標を確認しておく。
- 米国:2%(Flexible average inflation targeting)
- EU:2%前後
- 日本:2%
- 英国:2%
- 豪州:2~3%
- NZ:1~3%
- カナダ:1~3%
これらの主要国・地域のインフレ率はすでに目標を大きく超えてきている状況にある。
基本的にはインフレ率が各インフレ目標に戻ってくるまで金融引締が強まっていくと考えてよいだろう。
各国のインフレ状況
米国のインフレ状況
米国のCPI、PPI、そしてPCEデフレーターはいずれもピークアウトの兆しをみせている。
コアCPIやコアPPIも上昇率の鈍化がみられていることは、ピークアウトが資源価格要因だけによるものではないことを示しており、インフレリスクが和らいでいる確信が持てる状況であろう。
項目別にみても、サービスや住居費といった項目以外の物価上昇は急速に低下してきている。
住居費は足元の実際の動きがCPIに反映されるまでにラグがあることから、次第に低下してくることが期待される。
ただし、人手不足やコロナ後経済でのサービス価格の上昇はその他の主要項目に比べれば高止まりの可能性が高そうである。
Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics
Data Source : U.S. Bureau of Economic Analysis
また、アトランタ連銀のSticky/Flexible CPIの推移によればCore Flexible CPIは直近3ヵ月の低下ペースが加速している一方でCore Sticky CPIは直近3ヵ月年率換算で5%を超えており、FRBが目標にしている2%付近までの低下まではまだまだ時間がかかることを示唆している。
(住居費を除くSticky CPIがピークアウトしていることは前述したようにCPIに進行中の住居費低下が反映されればCPI上昇率をさらに押し下げることを意味するものと解釈できよう)
サンフランシスコ連銀の提供している供給要因・需要要因からのPCEデフレーター上昇率のデータに関しても同じ傾向を示している。
供給制約の緩和、需要要因による物価上昇圧力の弱まりがみられるものの、コアPCEの需要要因上昇率が2%を超えていることから、物価上昇率ピークアウトとFRB目標を超えた水準での物価の高止まりが予想されよう。
結局のところFRBが本当に物価目標2%までコアPCEデフレーターを押し下げたいのであれば需要自体を減少させる必要があり、その場合にはリスクアセットの下落につながる可能性が高いだろう。
Data Source : Federal Reserve Bank of Atlanta
Data Source : Federal Reserve Bank of San Francisco
Euro Areaのインフレ状況
Euro Areaは暖冬に助けられる形でエネルギー価格が落ち着き始めたことから、ヘッドラインHICPは上昇が一服したようである。
しかし、今後のウクライナ情勢の進展次第では再度欧州地域のエネルギー価格が急騰する恐れもあり、インフレがピークアウトしたと断定するにはまだ早いように思われる。
コアHICPでみれば、上昇ペースの加速さえみられる状況にあり、ECBは引き続きはやいペースで金融引締めを行う必要性がある。
今となっては、インフレ状況にしても、地政学リスクにしても欧州は米国に比べて悪い状況におかれていると考えていいだろう。
Data Source : Eurostat
日本のインフレ状況
日本のCPIは生鮮食品を除くCPIが前年比で4%ほどの伸びとなっており、日銀の物価目標を大きく超えている。
上昇ペースも加速傾向にあり、ピークアウトの兆候は見えていない。
通信費の上昇ペースに陰りが出ると思われる4月以降までは現在のペースで物価上昇率の拡大がみられる恐れがあると思っている。
先日発表された2023年1月分の東京CPIは総合指数が前年比+4.4%、生鮮食品を除くCPIが前年比+4.3%まで拡大しており、全国のCPIも同じ傾向になるものと考えられる。
また、電力会社の値上げ申請がでていることから、光熱費については今年も上昇し続けると考えられ、賃金上昇の弱い日本経済において一般家計の購買力を奪い続けることになる。
中国人とはじめとした観光客の増加も物価上昇を強める要因になるものと思われる。
現在のインフレ率から考えて日銀の物価目標は完全に形骸化・破綻しており、基準を失い無暗に続く異次元緩和策は黒田総裁退任後にYCC廃止とマイナス金利解消といった修正が必要になる。(すでに必要な状態にある)
Data Source : 総務省統計局
*チャートは端数処理後の指数から前年比の上昇率を計算しているため、端数処理前に計算されている前年比伸び率と数値にずれがあるため、流れをみる参考としてチャートを確認されたい。
イギリスのインフレ状況
イギリスのインフレ率は上昇ペースの加速こそみられなくなったものの、ヘッドラインで前年比10.0%を超える上昇、食品価格が12.9%の上昇となっており、他の主要先進国のインフレ率よりも高い傾向がみられる。
すでに政策金利は3.5%まで引き上げられているが、インフレ率を抑え込むためにはまったく足りていない。2月はじめにも50bpsの利上げが考えられ、更なる利上げが続くことも十分に考えられる。
ユーロ圏と同じくウクライナ情勢及びエネルギー価格の動きにも大きくされるだろう。
Data Source : Office for National Statistics
オーストラリアのインフレ状況
ニュージーランドのCPIは上昇ペースの加速が止まったのに対してオーストラリアのCPIは上昇率の加速が継続しており、ピークアウトの兆候は見られない。
中国のロックダウン終了、中国政府がオーストラリア産石炭の輸入を再開するなど、中国の経済活動及び貿易状況の回復がオーストラリア経済にプラスに働くとともに物価上昇圧力を強める可能性があろう。
現在のオーストラリアの政策金利は3.10%だが、物価を目標レンジまで押し下げるためには追加利上げが必要であろう。
ただし、資源国であること等を考えればインフレ問題において欧州諸国ほど深刻な状況にはないだろう。
Data Source : Australia Bureau of Statistics
ニュージーランドのインフレ状況
NZのCPIは上昇ペースの加速は止まったものの、前年比+7%を超えた水準で高止まりし続けている。
食品等の生活必需品の価格上昇に歯止めがかかっていないことから、一般家庭の家計状況の悪化が懸念される。
また、NZはすでに政策金利を4.25%まで引き上げているが、物価目標レンジまでインフレ率を押し下げるためには5.00%付近までは政策金利を引き上げる必要があろう。
Data Source : Stats NZ
カナダのインフレ状況
カナダのインフレ率は数か月前にピークアウトし、その後も鈍化し続けている。
食品及びエネルギーを除くコアCPIも12月に関しては上昇ペースの加速がとまった。
しかし、コアCPIは依然として5%を超えた水準にあり、政策金利の追加利上げが必要であることは他の主要先進国と変わらない。
すでに政策金利は4.50%と他の主要先進国よりも高い状況にあるため、比較的はやい段階で5.00%まで政策金利が引き上げられるものと思われる。
カナダも食品価格の上昇率が高く一般家庭の家計状況の悪化が不安要因である。また、他国よりも政策金利上昇ペースがはやいことを考えれば、金利上昇による経済活動・労働市場への影響が早めに出てくるかもしれない。
Data Source : Statistics Canada
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