2023年2月4日 先行指標からみる米国経済状況

インフレピークアウトの一方でISM等のソフトデータや住宅市場統計に深刻な悪化が見受けられるようになってきた。企業決算にも弱さが見られ始めた。

そんな状況にありながらも、現在の株式市場は景気後退リスクを凡そ完全に無視して楽観ムード一色といった状態にある。

景気後退リスクの織り込みが本当に不要なのか、いつものように先行指標を中心に米国経済の状況を確認しておきたいと思う。

主要先行指標の確認

長短金利差と実質金利

長短金利差は2年10年金利差、3ヵ月10年金利差どちらでみても逆イールドのマイナス幅が拡大し続けている。

既にITバブル崩壊前の水準を超えてマイナス幅の拡大が進行しており、景気後退を強く示唆している。

また、米国債のイールドカーブを確認してみると、政策金利は5%をピークに利上げが終了し、その数ヵ月後からは利上げが始まることの期待さえ生まれてきていることを示唆している。

過去の動きからすれば、これだけ強く利下げが債券市場で予想され、長短金利差のマイナス幅が拡大してから半年から1年ほどの間には景気後退に陥っていることが多い。

Data Source : Board of Govrnors of the Federal Reserve System

実質金利についても名目金利と同じように上昇一服といった状況である。

過去の実質金利推移をみれば、好況時で10Y TIPSの利回りが1.0~1.5%くらいの水準が適正とみることができようから、金融引締が行われている状態の水準に収まっているのではないだろうか。
ただし、1%を超えてくると金融引締の効果が企業活動等に影響するといわれており、現在の水準が続けば遅かれ早かれ経済活動の鈍化につながるものと思われる。

Data Source : Board of Govrnors of the Federal Reserve System

ミシガン大学消費者信頼感指数

ミシガン大学消費者信頼感指数からは、少なくとも一般消費者の経済状況の悪化ペースは落ち着いてきていることが示唆されている。

300~500人を対象とした小規模調査でブレが激しいこと、依然としてリーマンショック後と同等の低水準での推移が続いていることを考えれば、一般消費者のおかれている状況が悪いことに変わりはない。

労働市場の強さに限界が来るようなことがれば、さらなる消費者マインドの悪化も考えられる。

Data Source : University of Michigan

その他のソフトデータについていえば、ISM PMIの新規受注指数が42.5まで低下しており、企業側の景況感は激的に悪化しており、景気後退前夜といった状況にあり、ソフトデータも引き続き景気後退を示唆し続けている。

航空機除く非国防資本財受注

設備投資の先行指標となる本指標では、12月は前月比で2ヵ月連続のマイナス成長となった。
大きなマイナスはまだ見られないものの、設備投資には減速がみられはじめたと考えてよさそうである。

最近は製造業の設備稼働率にも低下がみられてきており、低調な決算結果、物価及び金利上昇を考えれば、今後もこの傾向が続くのではないだろうか。

Data Source : U.S. Census Bureau

住宅市場 建設許可件数・着工件数

長期金利低下に伴い住宅ローン金利もピークアウトし、低下傾向がみられるが、建設許可件数及び着工件数は減少が続いている。

住宅ローンがピークアウトしたといってもリーマンショック前程度の高水準にあること、物価上昇等の影響で住宅購入までの余裕がなくなってきているといった要因によるものと思われる。

また、現在建設中の住宅数は2000年以降の最高水準にあり、供給増・需要減によって住宅価格の低下は必須だろう。その影響がCPIに反映されてくればCPIでみたインフレ率はさらに低下すると考えられる。

Data Source : U.S. Census Bureau

Data Source : Freddie Mac

新規失業保険申請件数

新規失業保険申請件数には何の異常も見当たらず、労働市場は強い状態が続いているといえる。

2/3に発表された雇用統計も指標の調整による影響があったとはいえ、50万人超えという強い数字がでてきており、現時点では労働市場は堅調だと考えられる。

Data Source : U.S. Employment and Training Administration

先行指標全体の解釈と運用方針

先行指標からは将来的な景気後退が示唆されている一方で株式市場はそれを完全に無視している状況が続いており、この状況が修正されるまで米国株を買うタイミングを待ちたいという考えは変わらない。

一方で昨年から段階的に買いと考えてきた米国の長期債券ETFについては、雇用統計結果を受けて一度買いを止めるべきと考えている。債券利回りも下がってきていたことから、昨年から債券で利益が出ている部分についてはウェイトを軽くしておけば、割安局面で入るタイミングがめぐってくるものと思っている。

通貨については、今回の雇用統計のみで今年の円高方向の見方を変えるほどではないと思っているが、米ドルを下支える要素が増えたことから、日銀関連のヘッドラインで大きく円高に振れることがあれば、欲張らずに米ドル買いも考えていく必要がありそう。