急伸する円安の転換点を考える

現在の概況

2021年はじめのUSDJPYは103円付近での推移をしていたが、FRBのテーパリング・債券購入プログラムの終了と政策金利引上げを背景に1年と少しで122円台まで円安が急激に進展した。

政策金利に関しては、複数のFOMCメンバー及びパウエル議長が頑固に主張していたインフレ率の低下をあきらめ、歴史的な物価上昇への対応をみとめ、ここから非常にはやいペースで引上げが行われると想定されている。

一方で日銀及び黒田総裁に関しては、2022年3月25日の衆院財務金融委員会で「現時点で円の信頼が失われたことではない」とし、輸入企業のドル需要等を背景に円安が進んいるのであって日本円それ自体の力が失われているわけではないことを示唆した。
(日銀への信頼はとうに失墜しているだろうとは個人的に思うが)

また、日本の経済構造に関して黒田総裁は、「円安が全体として経済と物価を押し上げ、日本経済にプラスに作用しているという基本的な構図は変わりない」「企業収益が拡大して、賃金の上昇や設備投資の増加につながる」(輸出企業の収益を拡大させることで)といった発言をしており、少なくとも今くらいの円安であれば日本経済にとってはプラス要因であり、金融政策の変更等で対応する必要がないことを示唆した。

輸出企業の収益拡大が我々一般庶民の所得改善に寄与したことが過去にあったか、将来的にあるのかは甚だ疑問であるが、黒田総裁はそう考えているようである。

このことから、FRBは急速な金融引き締め・政策金利引上げ方向であるのに対して、日銀は異次元金融緩和を継続するといったまったく逆の方向で動いているというのが日米中央銀行の状況である。

物価の状況についても日米で大きな差があり、これが両国中央銀行の金融政策の差を生み出している一因であることは言うまでもない。

物価だけみれば日本はまだ落ち着いているとも考えられるが、経済成長と賃金の伸びが期待できない状況にあるため、スタグフレーションまっしぐらであり、この日本経済の弱さも円安を加速させる要因といえるだろう。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

Data Source : 総務省統計局

急速な物価上昇の主たる要因の一つが原油などのエネルギー価格の急騰であるが、これが資源を持たない日本の経常収支・貿易収支を悪化させることとなり、これもまた円安を加速させることになると考えられる。

以上みてきた通り、現在の円安は主に、日米金融政策・日米金利差要因、経済成長の強弱、日本の経常収支悪化といった3つの要因によって引き起こされているものと考えられる。

円安トレンドの転換点

非常に強い円安トレンドを転換させるには、上記であげた主な円安要因にしっかりとした転換がみられる必要があるものと思われる。

物価上昇に関しては、米国の歴史的な高インフレ率をみれば、すぐに収まるようなものとは思えず、これに対応するためにFRBが早いペースで政策金利を引上げることについてもシナリオは大きく変わらないだろう。

ウクライナ問題によるエネルギー価格上昇や中国のCOVID-19感染者拡大によるサプライチェーンへの影響など物価を上昇させるような要因も少なくない。

これは日本経済にとってみれば貿易収支の悪化の継続、一般家庭の購買力低下を招くことになるため、日本経済の回復によって円安に歯止めがかかることを期待するのも難しいだろう。

一方で物価上昇の継続を考えれば、以前から指摘してきた通り、携帯電話料金低下の影響が剥落してくれば日本のCPIも日銀が目標にしてきた2%を超えることとなるであろうことから、2022年中に日銀の金融政策に変化がみられるのではないかと個人的には考えている。

上述と通り、現在の日銀及び黒田総裁は、現行の金融緩和の継続を必要としているが、物価の上昇が明確に2%を超え、家計の負担が大きくなるにつれて、政府側からも世論からも対処が求められる状況となれば、方針の転換がみられてもおかしくはない。

また、株式市場が大きく下落した際に購入し続け、株式市場を歪め続けているETFの購入プログラムに関して何らかの出口を探るいい機会にもなると思われる。

すぐに日銀が政策金利の引き上げに動くわけでもないが、ETF購入プログラムの見直しや、10年債利回りのターゲットレンジを緩めるなどの対応がみられれば、日本国債利回りの上昇によって円安基調に変化が出てくるものと考えている。

このことからUSDJPYの転換をみるうえでは、日銀に政策の転換が必要であると考えさせるような物価の上昇をみられるかが重要なキーとなると思われ、3月以降の日本のCPIにはいつも以上の注意を払っていく必要があるものと思っている。

要人発言についても利上げで考えが一致しているだろうFOMCメンバーよりも黒田総裁をはじめとする日銀メンバーや日本の内閣関係者の発言に注目してみたい。