植田総裁の初の金融政策決定会合で希望を失う日本円

先日は植田新総裁の初の金融政策決定会合が行われた。
フォーワードガイダンスの廃止、過去の金融政策レビューの実施、ステートメントの表現変更などがみられたものの、YCCのレンジ拡大さえ行わず、金融緩和政策は完全に維持された。

何の成果も上げることができなかった黒田前総裁からバトンを受けた植田総裁による政策の転換期待こそが日本円が価値を取り戻す希望であっただけに、その希望を失うこととなってしまった。

今後の物価見通しと物価目標の形骸化

2022年4月に日本のCPIが前年比上昇率が2%を超えてから一年が経過した。

そして、今回の金融政策決定会合で発表された物価見通しによれば2%を超えた、またはその前後での物価上昇率は相当期間続くことが予測されている。

2023年度後半に一度エネルギー価格要因でコアCPIの伸び率が鈍化するものと考えられているが、生鮮食品及びエネルギー価格を除いたコアコアCPIの見通しからして、基調的なインフレ率が2%を下回るのは2024年度になってからであるとみていることがわかる。

また、コアCPIの上昇率についても2024年度には再度2%まで上昇するとの見通しである。

つまりは、2022年4月から始まった前年比+2%を超える物価上昇基調は2年以上継続するものと考えられている。
それにもかかわらず、植田総裁は黒田前総裁と同じように、安定的・持続的な物価上昇目標は達成されていないと考えているのである。

もはや安定的な物価上昇の定義が抽象的になりすぎており、意味を持たなくなっており、市場としても日銀のコミュニケーション・目標設定に対して信用を完全に失ったのではないだろうか。

不作為の総裁との今後5年間

今まで及びこれからの見通しで物価上昇率が2%を超えた状態が合計2年以上続くのではないかとされながらも、異常な金融緩和を放置するような総裁が今後5年間、金融政策を担当することになる。

黒田前総裁から植田総裁に代わってようやく異常な政策状況に転換がみられるかと思いきや、更に5年もの間は素早く行動できない総裁が日本の経済政策を担当することが明らかになってしまったことは、日本円に対してはもちろんのこと、日本経済に対しても悲劇と見ずにはいられない。

円安による貿易収支の悪化(もはや円安は貿易収支を押し上げる要因ではない)、実質賃金の減少・一般家計の購買力低下など日本経済への悪影響が長期にわたって継続することになるだろう。

円高見通し修正の必要性

今までは物価上昇率2%を超えること、黒田前総裁の退任などからYCCの段階的な廃止がみられ、行き過ぎた円高が修正されるのではないかと考えていたが、物価目標の形骸化、植田新総裁が黒田前総裁と同程度に行動できないことから、それらの期待は全て消え去った。

もちろん米国の将来の金融政策によって円高に動く可能性は残されてはいるものの、日銀が日本円の価値を毀損し続けようことから、大きな円高は期待し難い状況になったと思われる。

円高期待の大きな根拠が消え去ってしまったからには円高見通しは修正しなければならないだろう。