証券アナリスト(CMA・CFA)のための財務分析

基本的な分析のための計算は、損益計算書とバランスシートの値を売上や総資産で除して割合を計算することで行う。

PL項目 / 売上

BS項目 / 総資産

PLの情報とBSの情報とを合わせて使う場合には、BSの情報は期初と期末の平均値を利用する。

前提知識

総資本 = 負債-純資産合計

自己資本 = 純資産合計-新株予約権-少数株主持分 = 株主資本+その他の包括利益累計額

経営資本 = 総資産-建設仮勘定-投資その他の資産-繰延資産

事業利益 = 営業利益+受取利息・配当金+持分法における投資利益

営業レバレッジ = 1 / 安全余裕度 = 1 / (1-損益分岐点比率)

設備投資 = 期末固定資産-期首固定資産+減価償却費

割引前将来キャッシュフロー = 営業利益+減価償却費-運転資本増加

収益性評価

既に述べたようにBSのデータは期初と期末の平均値を用いて計算する。

活動比率

活動比率をみるうえで重要なのは、同業他社と比較して高すぎず、低すぎずの値を維持しているかを確認する必要がある。

債権回収が早いことがいいかというと、回収が同業他社と比較して早すぎるのであれば信用付与の条件が厳しすぎて取引機会を失っている可能性もある。かと言って売上債権の回収に長い時間がかかっているとすれば、余計な信用を与えていたり、余計な資本が自由に使えない状況になっていることを意味している。

代表的な活動比率

Receivables Turnover(売上債権回転率) = sales / receivables(売掛債権) :売上債権の回収効率を図る

Days of Sales Outstanding(売上債権回転期間) = 365 / 売上債権回転率

Inventory Turnover(在庫回転率) = COGS(Cost of Goods Sold) / Inventory(在庫)

在庫回転期間 = 365 / 在庫回転率

Total Asset Turnover(総資産回転率) = Revenue(収益) / Total Asset(総資産)

WC Turnover(運転資本回転率) = Revenue / WC

PL, BS関連 収益性比率

Operating Profit Margin = EBIT / Revenue (Operating Income / Revenue)

EBITには営業利益以外の投資資産の価値増加なども含まれている点に注意が必要。
つまりは、EBITは営業利益に金利損益以外の営業外損益と特別損益とを含むものであり、営業利益率とEBIT/RevenueのOperating Profit Marginとは厳密には異なるものである。

Net Profit Margin(純利益率) = NI / Revenue

COGS to Sales(売上原価比率) = COGS / Sales

損益分岐点分析

限界利益 = 売上高-変動費 (限界利益=固定費+営業利益 と考えることもできる)
限界利益率 = 限界利益 / 売上高 = 1-変動比率
変動比率 = 変動費 / 売上高

損益分岐点売上高 = 固定費 / 限界利益率
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 / 売上高

安全余裕度 = (売上高-損益分岐点売上高)/ 売上高 = 1 − 損益分岐点比率

資本効率

ROE = NI / Equity

ROC = EBIT / Capital

ROA = NI / Assets

ROIC(Return on Invested Capital) = NOPAT(Net Operating Profit After Tax) / Capital

ROCE(Return on Common Equity) = (NI-Preferred Dividends) / Common Equity

DuPont Equation(デュポン分解)

ROEを細かい構成要素に分解して分析する。

ROE = NI/Revenue + Revenue/Assets + Assets/Equity
(ROE = 純利益率+総資本回転率+財務レバレッジ)

ROE = NI/EBT + EBT/EBIT + EBIT/Revenue + Revenue/Assets + Assets/Equity
(ROE = 税負担+金利負担+EBIT Margin+総資本回転率+財務レバ)

税負担や金利負担の上昇(NI/EBTやEBT/EBITの低下)は常にROEの低下をもたらす。

CF関連

これらは収益性、健全な売上金の回収が行われているかを図るために利用できると思われる。

Cash to Income = CFO / Operating Income

Cash ROE = CFO / Equity

CF per share = (CFO-preferred dividends) / 期中平均普通株数

FCF:フリーキャッシュフロー

FCFF:Free Cash Flow to the Firm

FCFFは債権者と株主をあわせた全ての投資家に対して自由に利用できるCFといえる。

FCFF = NI(Net Income)+NCC(Noncash charges)+Int(interest)*(1-tax)-FCinv(fixed capital investment)-WCInv(working capital investment)

FCFF = 純利益+非現金支出+利払い*税効果-固定資本投資-運転資本投資

FCFF = CFO(Cash Flow from Operating) + Int*(1-tax)-FCInv
FCFF = CFO+利払い*税効果-固定資本投資

CFOの計算時にすでに運転資本の増減は考慮されているため、CFOをベースにFCFFを計算する場合には固定資本投資の増減のみ調整すればよい。

FCFE:Free Cash Flow to Equity

FCFFが債権者も含めた投資家全てに対してのCFを意味していたのに対してFCFEは株主にとって自由に利用できるCFを意味する。

FCFE = CFO-FCInv+net borrowing(純借入)

FCFEは株主にとってFCFであるため、利払い分は足し戻さない。

一方で純借入部分は株主にとってはCFのプラスととらえられるため、加算する。

安全性評価

短期安全性評価

流動性比率や当座比率は短期的な支払い能力を測るために用いられる。

Current Ratio(流動性比率) = Current assets / Current Liabilities

Quick Ratio(当座比率) = (Cash + Marketable Securities + Receivables) / Current Liabilities

Cash Ratio = (Cash + Marketable Securities) / Current Liabilities

Defensive Interval = (Cash + Marketable Securities + Receivables) / Average Daily Expenditures(平均日次出費)

長期安全評価

長期的な支払い能力、Solvencyを測る。

Debt(負債)が何を意味するかは色々考え方があるが、有利子負債と考える場合が多いか?

Fixed Ratio(固定比率) = Fixed Assets / Equity

Debt to Equity = Debt / Equity

Debt to Capital = Debt / Debt + Equity

Debt to Assets = Debt / Assets

Debt to Capital(負債総資本比率)とDebt to Assets(負債資産比率)は同じような指標ではあるが、前者は負債のうち有利子負債以外は計算の対象外としている。つまりは、Capital=有利子負債+Equityである。

EV / EBITDAとDebt / EBITDAの差もリスク評価には有用である。
これらの差が大きいということは、負債への依存が多いことを意味しているため(EVとDebtの差を直接みてもいいのだろうが)差が過度に大きくないのかを確認しておくといいだろう。

EV = MC(Market Capitalization) + Total Debt – C(Cash and Cash Equivalents)

Interest Coverage Ratio

Interest Coverage Ratio = EBIT + Interest Income / Interest Expense

CFOをベースにして計算すると以下のようにもできる

Interest Coverage Ratio = (CFO + Interest Expense + Taxes) / Interest Expense

Fixed Charge Coverage = (EBIT + Lease Payments) / (Interest Expense + Lease Payments)

EV/EBITDA倍率

EV(企業価値) = 株価時価総額+有利子負債-現預金

EBITDA = 経常利益+支払利息+減価償却費

EV・EBITDA倍率 = EV / EBITDA

企業のレバレッジ測度

企業に収益をもたらすビジネスのリスクや安定性を測る方法として様々なレバレッジ測度がある。

営業レバレッジの測度

DOL(the degree of operating leverage)と呼ばれ、企業の行っている通常の営業活動、そこから得られる収益に関するリスクを測るものである。

販売量が1単位変化したときに営業利益(EBIT)にどれだけ影響を与えるのか、つまりは営業利益(EBIT)の販売量に対する弾力性を意味する。

DOL = ΔEBIT/EBIT ÷ ΔSales/Sales

EBITを(販売価格-変動費)× 販売量 と置いた場合、(EBITを限界利益とした場合)

DOL = Q・(P-VC) / Q・(P-VC)-FC ( = (Sales-TVC) / (Sales-TVC-FC) )

これらの式は、固定費の変動費に対する割合が高まれば、それだけ営業リスクが高いことを意味している。

財務レバレッジの速度

これはEBITが1単位変化したときにEPSがどれだけ増減するのか、つまりは純利益部分の営業利益に対する弾力性を測るものである。

DFL = ΔEPS/EPS ÷ ΔEBIT/EBIT

金利費用に注目すれば、

DFL = EBIT / (EBIT-Interest)

総合レバレッジ測度

これは販売額が1単位変動したときの純利益の変化額を意味する。

DTL = DOL・DFL

DTL = (ΔEBIT/EBIT ÷ ΔSales/Sales)・(ΔEPS/EPS ÷ ΔEBIT/EBIT)

DTL = ΔEPS/EPS ÷ ΔSales/Sales ( or = (Sales-TVC) / (Sales-TVC-FC-Interest) )

将来投資評価

再投資CF = CFO / Cash paid for long-term assets

投資余力 = CFO / Outflows from CFI, CFF

バリュエーション評価

PER = Price / EPS

Operating PER = Price / Operating EPS

PSR = Price / Sales per share

PBR = Price / Book value per share

PBR = 1 +(ROE – 要求収益率)/(要求収益率 – 成長率)

残余利益に基づく評価方法

残余利益 = B(期初株主資本簿価) × (ROE – k) : kは要求収益率

P = B+1/(k-g) × B × (ROE-k)