国際収支と資金過不足、国内生産との関係性

国際収支統計の基本

国際収支統計とは、国内居住者と非居住者との対外経済取引による資金の流れを現したフロー統計である。
国際収支統計は下記の主要項目から構成されている。

  • 経常収支
    1. 貿易・サービス収支
      1. 貿易収支
      2. サービス収支
    2. 第一次所得収支(旧所得収支)
    3. 第二次所得収支(旧経常移転収支)
  • 資本移転等収支(旧その他資本収支)
  • 金融収支
    1. 旧投資収支項目
      1. 直接投資
      2. 証券投資
      3. 金融派生商品
      4. その他投資
    2. 外貨準備

金融収支は、以前の資本収支(投資収支とその他資本収支から構成)の投資収支部分と外貨準備増減を統合したものである。以前のその他資本収支は、資本移転等収支として独立した。

また、以前までの投資収支は資産側(対外投資)の資金流出(資産増加)をマイナス符号・資金流入(資産減少)をプラス符号、負債側(対内投資)の資金流入(負債増加)をプラス符号・資金流出(負債減少)をマイナス符号で表していた。

以前は国内外間の資金流出入に基づいて、資金流入はプラス符号、資金流出はマイナス符号で表してきた。

しかし、金融収支に変わってからは、プラスマイナスの符号は資産・負債の増減を表すように使われるように変更された。
つまりは、対外投資の資金流出(対外資産増加)はプラス符号・資金流入(対外資産減少)はマイナス符号、対内投資の資金流入(対外負債増加)はプラス符号・資金流出(対外負債減少)はマイナス符号となった。

この変更から、経常収支の計算式にも下記のように変更がみられた。

  • 旧:経常収支+資本収支+外貨準備増(-)減(+)+誤差脱漏=0
  • 新:経常収支-金融収支+資本移転等収支+誤差脱漏=0

以前までは経常収支とその他資本収支の合計が投資収支と外貨準備増減の合計と同じになると言われてきたが、現在では経常収支と資本移転等収支の合計と金融収支が一致することとなる。

これは財・サービスの取引は常に金融収支を発生させることになる。
何かを輸出した時には経常収支の貸方にその輸出金額が記録され、金融収支の借方に同額の先方の支払債務金額が記録されることとなる。
何かを輸入した時にはその反対で、経常収支の借方にその輸入金額が記録され、金融収支の貸方に同額の支払債務金額が記録される。

貸方借方
貿易収支輸出輸入
サービス収支輸出輸入
第一次所得収支受取支払
第二次所得収支受取支払
資本移転等収支(資本移転)受取支払
資本移転等収支
(非金融非生産資産)
処分取得
金融収支(資産)減少増加
金融収支(負債)増加減少

国際収支統計と国民経済計算の関係

国民経済計算は国の経済全体を表す統計であり、四半期別GDPと国民経済計算年次推計の2つから構成されている。

国際収支統計との対応としては、大まかに以下の通りとなる。

国民経済計算国際収支統計
経常対外収支経常収支
純資本移転第一次所得収支(旧その他資本収支)
資金過不足金融収支(旧投資収支項目+外貨準備増減)

国民経済計算では経済主体が行う取引を所得支出勘定で扱い、資本取引についてを資本調達勘定にて行う。
各経済主体の資金過不足のデータは資本調達勘定に含まれてくる。

上記分類から、国際収支統計の金融収支のプラス(経常黒字・第一次所得黒字)は国民経済計算の資金過不足において、海外部門の資金不足を意味する。
反対に金融収支のマイナス(経常赤字・第一次所得赤字)は海外部門の資金余剰を意味することとなる。

GDP計算式と経常収支の関係性

GDPの三面等価の原則から、生産面から見たGDP、分配面から見たGDP、支出面から見たGDPはすべて一致する。

分配面から見たGDP:Y = C + S + T
支出面から見たGDP:Y = C + I + G + (EX – IM)
Y:総生産 C:消費 I:投資 S:貯蓄 G:政府支出 T:税 EX:輸出 IM:輸入

これらの計算式から、下記のように置き換えることができる。
C + S + T = C + I + G + (EX – IM)

(EX – IM) = (S – I) + (T – G)

これは経常収支(貿易サービス収支)の黒字が民間部門の貯蓄超過や政府部門の財政黒字と一致することを意味しており、経常赤字は民間部門の投資超過や財政赤字から説明できることを意味する。

これは上でみてきた通りに、国内の経済主体の資金過不足によって経常収支が説明できることを意味している。

その他にも支出面から見たGDPの計算式を置き換えると、
(EX – IM) = Y – (C + I + G)
といった形となり、国内生産と国内での需要との差が経常収支に現れる関係がみられる。

現在の日本の状況を例にしてみれば、政府部門は大きな財政赤字を垂れ流しているが、それ以上に民間部門が貯蓄超過のために経常収支の黒字が維持されているといえる。
ただし、高齢化による家計の貯蓄取り崩しが進むことが予想されるため、将来的には民間の貯蓄超過が政府部門の財政赤字の金額を下回るようになり、経常収支が赤字になってくるのではないかと考えられる。