為替レートの変動要因と決定理論

経常収支と通貨価値・為替変動

経常収支と資本移転等収支との合計は、金融収支と一致する、つまりは、
経常収支+資本移転等収支-金融収支=0 と理論上はなる。
( 経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0 )

ひと昔まえは、金融収支は投資収支、資本移転等収支はその他資本収支と呼ばれており、投資収支の正負号は今と反対であった。(流出をマイナス、流入をプラスとしていたが、金融収支になってから資産の増減に着目した正負号のつけ方に変更された)

余談はさておき、経常収支と金融収支がおおよそ一致する、つまりは、経常赤字は金融収支のプラスを意味しており、経常赤字は、海外への資産売却や負債によって相殺させる必要があることを意味する。

次にの国内総生産と経常収支(貿易収支)との関係式をみてみる。

GDP = C(消費) + I(投資) + G(政府支出) + EX(輸出) – IM(輸入)
GDP = C(消費) + S(貯蓄) + T(税収)

この式を書き換えれば、下記のようになる。

C + S + T = C + I + G + EX – IM
(EX – IM) = (S – I) + (T – G)

純輸出=個人貯蓄+財政支出-投資 という関係を示しており、
低い国内の貯蓄不足(投資超過)、政府の財政赤字は経常赤字につながることを意味している。

経常黒字・金融収支プラスの場合には、国内の資金余剰を意味しており、対外純資産の増加を通じて自国通貨の増価要因となる。

金利平価説

国内通貨を保有していたとしても、外国通貨を保有していたとしても将来的な実際の価値が同じようになるものと仮定し、国内外金利差に応じて将来価値を調整するように為替レートが変化すると仮定する。

将来レート(quote currency / base currency) = 現行レート × (1+iq) / (1+1b)
or
(1+iq) = 将来レート / 現行レート × (1+ib)

iq:クオート通貨の金利 ib:ベース通貨の金利

購買力平価説

購買力平価説は、一物一価の法則が成り立つように為替レートが決定されるとする考え方である。
長期的には国内外のモノの価値は同じになるとする。

絶対的購買力平価

絶対的購買力平価は一物一価の法則が完全に成立するものと仮定して、それに従うように為替レートが決定されると考える。

計算式:
為替レート(quote currency / base currency)= クオート通貨国の物価 / ベース通貨国の物価

例えば、ある物Aの日本での価格が100円、米国での価格が1米ドルであった場合には、以下のようになる。USDJPY = 100 / 1 = 100.00となる。

絶対的購買力平価説では、一物一価の完全な成立を想定しているため、全ての財が貿易財であると仮定しており、現実的ではないという問題がある。
現実的には非貿易財の存在や輸送コストや関税といった問題から、完全に一物一価が成立することは難しい。

相対的購買力平価

相対的購買力平価は絶対的購買力平価が成立していると考えられる基準点の為替レートから、二国間の物価上昇率の格差に応じて為替レートが変化していくとする考え方である。

計算式:
ΔE/E = クオート通貨国の物価上昇率(ΔPq/Pq)- ベース通貨国の物価上昇率(ΔPb/Pb)

貨幣数量説に基づくマネタリーアプローチ

古典派貨幣数量説に従えば、
MV = PY
ΔM/M + ΔV/V = ΔP/P + ΔY/Y
M:マネーストック V:貨幣の流通速度 P:物価 Y:国内生産

貨幣の流通速度は商習慣等により決定されるため、変化は非常に緩やかであること、国内生産は長期的には潜在成長率に収れんすることから、マネーストックの増加は物価の上昇のみにつながる(貨幣の中立性)と考えられる。

従って、外国よりも早いペースでのマネーサプライの増大は相対的に強い物価上昇を招き、自国通貨を減価させる要因となる。

また、マネーストックと貨幣の流通速度が変動しない状況下において、潜在成長率が上昇する場合には、物価上昇率を抑えることになると考えられるため、相対的に大きな潜在成長率の上昇は自国通貨を増加させる要因となる。

ポートフォリオ・バランス・アプローチ

ポートフォリオ・バランス・アプローチは、為替レートの長期的な決定理論とされる購買力平価説により、短期的な決定要因である金利要因をとりいれて為替レートの変動を説明しようとするモデルである。

計算式の一例:
為替レート(q/b) = 購買力平価 + 1/θ・実質金利差(rb-rq) - 1/θ・RP(CA)

1/θ : 調整係数 rb:ベース通貨の実質金利 rq:クオート通貨の実質金利 
RP(CA):累積経常収支に基づく経常黒字

上記式のように物価上昇率差要因(購買力平価要因)だけでなく、実質金利差要因、経常収支要因(国際収支要因)も考慮して為替レートを求めようとするものである。

RP(CA)は、クオート通貨国の累積黒字を仮定し、クオート通貨国の累積経常黒字拡大は、ベース通貨の減価要因となる。

調整係数が正負符号いずれにもなりうる状況を考えた場合には、下記のように考えられる。
為替レート(q/b) = 購買力平価 + α・実質金利差(rb-rq) + β・RP(CA)

α, β:調整係数

金利平価説とポートフォリオ・バランス・アプローチ等理論との矛盾について

ポートフォリオ・バランス・アプローチや一般的に言われているように、現実的には金利の上昇がみられた場合には、金利が相対的に上昇した通貨は増価する傾向がある。

一方で金利平価説によれば、金利の高い通貨の価値は、相対的に金利の低い通貨に対して減価すると考えられている。

これはどういうことだろうか。
まず一つの考え方としては、単純に金利平価説が常に成立するわけではなく、現実的には金利平価説の想定とは反対の為替レート変動がみられるとしてしまうこともできるだろう。

もう一つの考え方としては、長期的に将来の為替レートは購買力平価等で説明される水準に収れんされると考え、将来的に収れんする為替レートを一定とした場合には、金利平価説の計算式上では現行レートが上昇するという形で徴されるとと考えることもできるのではないだろうか。

日本の金利:1.0%、米国の金利:3%、現在のUSDJPY:100として金利平価説から計算を行った場合、将来のレートは、
100×(1.01/1.03) = 98.058 となる。

ここで米国の金利が3%から5%に上昇し、それが将来のレートではなく、現行レートに働きかけると考得る場合には、
98.058÷(1.01/1.05) = 101.941となる。

このように金利上昇は将来のレートではんく現行レートに働きかけるものであり、長期的には購買力平価といった物価要員や国際的な資金需要要因・持続的な経常収支要因によって決定される長期的な将来レートに大きく影響を与えるものではないと考えれば、ある程度の矛盾は解消されるように思う。