【金融政策】日銀・黒田総裁の失敗とその影響

黒田総裁率いる日銀は、「円安は日本経済にとってプラス」「円安がとの考え方からETF購入やイールドカーブコントロールを含む異常な大規模金融緩和を進めてきたことで、9/6にはUSDJPYが141円後半をつけるほどの円安となっている。

この日銀の誤った認識とその政策維持による影響の現況を再確認しておきたいと思う。

輸入物価の上昇

日銀は物価上昇については、「エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押上寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される」とエネルギー価格上昇が継続しないことから、物価上昇は緩やかなものとなるとの考え方を展望レポートで示してきた。

確かにエネルギー価格に限っていえば、来年以降に今年と同じペースでのエネルギー価格上昇がみられるとは考えにくいが、その他の食品や耐久財などの幅広い品目に物価上昇がみられるようになっており、世界的なインフレトレンドがすぐに収まるということはないだろう。

それに加えて、日銀が維持する異常な金融緩和による急激な円安が状況を悪化させ、経済に悪影響を及ぼし続けるものと考えられる。

2022年7月の輸入物価は円ベースで前年比48.0%、契約通貨ベースで前年比25.4%上昇しており、輸入物価の上昇の凡そ半分は円安によるものとなっている。
このことから、現在のペースで円安が続くようであれば、エネルギー価格の国際価格上昇がピークアウトしようとも日本国内でのエネルギー価格が低下するとは限らないわけである。

それどころか円安による輸入物価上昇はエネルギー価格だけでなく幅広いモノの価格を上昇させることとなり、日本全体、日本の消費者の購買力を奪い続けることとなるだろう。

このように、急激な円安の一因である異常な規模の金融緩和自体が悪い物価上昇圧力を強め、日本経済を棄損するに至っている可能性がある

実質賃金の減少

2022/9/6に発表された7月の毎月勤労統計調査によれば、実質賃金は前年日-1.3%と4ヵ月連続での減少となった。(参考記事

金融緩和とそれに伴う円安によって強化された物価上昇圧力が実質賃金、家計の購買力を蝕んでいることがよくわかる。

金融緩和による低金利は資金調達を容易にして投資や消費を促す側面もあるが、それは同時に上述の通り金融緩和による通貨安が物価上昇に拍車をかけ、実質賃金の減少と消費減退につながるという悪影響も出てきている。

日銀の金融緩和の持続可能性

黒田総裁はジャクソンホール経済シンポジウムにおいて、「賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するまで、持続的な金融緩和を行う以外に選択肢はない」と発言した。

しかし、現在の金融緩和は上記のとおり悪い物価上昇を助長し、家計の購買力を蝕む一因となっている。この状況では賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するなどということが起こることは当面は考えにくい。

現在の急激な円安、輸入物価の約半分を通貨安で説明できるという状況を考えて、黒田総裁のいう賃金と物価の安定的な上昇が実現するまで現在の金融政策が持続できるとは到底考えられない。そんものを待っていたら円の暴落で日本の家計も日本経済も取り返しのつかない状況に置かれていることだろうことは明らかなのだから。

以上のことから、実現可能性の非常に低い理想的状況を夢見ながら持続可能性のない異常な規模の金融緩和金を続けるのではなく、融緩和自体は継続するにしても、ETF購入やイールドカーブコントロールといった金融市場の緊急事態への対処として超例外的に使われるような緩和策を縮小させ、金融政策の調整が必要になっていることを示唆しているのではないだろうか。
(マイナス金利も長期的に放置すべきものでないと思うが、ETF購やYCCの調整から入るべきだろう)

こういった緩和縮小に対しては、企業の倒産が増加することを理由とした反対意見がもたれることがあるが、政策金利はゼロ金利(マイナス金利)・国債買入継続の緩和的状況は継続してETF購入やYCCにのみ調整を加える過程で多少なり企業の倒産が増えることがあったとしてもそれは退場すべき企業の倒産であり、それを気にすべきではない。

円安や輸入物価高によって日本経済が取り返しのつかない状態にならないうちに黒田総裁が政策を修正することを期待したい。

黒田総裁が機能不全なら最悪財務省が日銀に介入をさせるということも選択肢とは思うが、過去の為替介入の効果を見る限りは、米国との協調介入でもなければ効果は一時的かつ小さいものになってしまうだろうから、結局は日銀の政策修正が必要になってくると思う。