2023年5月 主要各国のインフレ状況まとめ

主要各国でインフレ率のピークアウトが進展、又、CPIとコアCPIの上昇率の逆転がみられるようになってきた。

これに伴い、各国の利上げの終わりと2023年後半以降のどこかのタイミングで利下げへと政策が転換するのではないかとの考え方が広がり始めている。

主要各国のインフレ状況現状を確認し、今後の利下げへの政策転換が本当に近づいているのかを確認していきたいと思う。

主要先進国中央銀行の物価目標

今回もインフレ状況をみていく前に主要先進国の中央銀行が持つ物価目標を確認しておく。

  • 米国:2%(Flexible average inflation targeting)
  • EU:2%前後
  • 日本:2%
  • 英国:2%
  • 豪州:2~3%
  • NZ:1~3%
  • カナダ:1~3%

各国のインフレ状況

米国のインフレ状況

CPI、PPI、PCEいずれもインフレ率の鈍化傾向は継続している。

項目別にみても今まで鈍化傾向になかった住居費やサービス価格に関してもピークアウトに転じており、CPIの主要項目はいずれもピークアウトを示すに至った。

CPIに先行する傾向があるPPIについても順調に上昇率が低下してきており、今後もCPIの上昇率鈍化傾向が継続するものと考えられよう。

これをもって今回のインフレトレンドは一先ず反転に転じたといえるが、コアCPIが前年比+5.5%付近、CPIが前年比5.0%付近と高い水準での推移が続ていることに変わりはなく、インフレ率だけから考えるのなら、利上げ停止はあろうとも数ヵ月間は政策金利が据え置きされるべきと思われる。
(米国の銀行システムが不安定な状況にあり、銀行システムの脆弱性に起因する経済危機が早い段階で金融緩和への転換をFRBに強要することは十分に考えられる)

前回の強い雇用統計・賃金推移からしても、金融緩和に転じるには時期尚早であり、労働市場の過熱感が多少なり冷め始めるのを確認したいといった状況ではないだろうか。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics

Data Source : U.S. Bureau of Economic Analysis

また、アトランタ連銀のSticky/Flexible CPIの推移によれば、Sticky CPIにピークアウトの兆しが見えているが、Core Flexible CPIは直近3ヵ月年率換算は上昇に転じており、Core Sticky CPIは直近3ヵ月年率換算で引き続き5%を超えているなど、FRBが目標にしている2%付近までの低下まではまだまだ時間がかかることを示唆している。

サンフランシスコ連銀の提供している供給要因・需要要因からのPCEデフレーター上昇率のデータには、需要要因のPCE上昇率は低下傾向がみられ始めたが、Core PCEの需要要因の前年比上昇率は依然として2%を超えており、この指標もインフレ率の低下には、まだまだ時間がかかることを示唆している。

Data Source : Federal Reserve Bank of Atlanta

Data Source : Federal Reserve Bank of San Francisco

Euro Areaのインフレ状況

EU及びEUの主要国のインフレ率についても米国と同じようにHICP総合指数とコアHICPの上昇率は逆転しており、総合指数でみれば完全にピークアウトしたといえる。

しかし、米国とは異なり、コアHICPは前年比上昇率が拡大さえしており(Euro Area及びドイツ)、インフレ基調という意味ではまだ、ピークアウトとは言えない複雑な状況である。

ECBの利上げトレンドも終了が近いだろうが、政策金利を高い状況で維持する必要があることは米国と変わりがない。むしろECBはFRBよりも長い期間政策金利を高い状態に維持する必要があると言えそうである。

日本のインフレ状況

日本のCPI総合指数は、政府の電気・ガス代の補助金制度による物価高対策によって、2023年2月以降は大きく上昇率が低下した。

一方で生鮮食品及びエネルギーを除いたCPIは上昇ペースが加速しており、前年比+3.8%となっている。
それにもかかわらず、日銀は安定的な物価目標2%を達成していないと主張し、異常な金融緩和政策を継続している。

日銀の失策による通貨安も相まって当面は高い物価上昇率が継続するものと思われる。
日本の一般家計の購買力は減少し続けることになるだろう。

イギリスのインフレ状況

イギリスのインフレ状況は主要国の中で最も悪い状況と考えられる。
CPI総合指数の前年比上昇率もピークアウトの兆しこそ見られるものの、依然として10%を超える上昇が続いており、コアCPIについても前年比+6.0%前後で数ヵ月間高止まりしている。

食品及びノンアルコール飲料の前年比上昇率は20%に迫っており、食品価格上昇に歯止めがかからない状態である。
イギリスの一般家計の状態も悪化するばかりだろう。

オーストラリアのインフレ状況

オーストラリアのインフレ率もピークアウトしたものと思われるが、RBAが最も重視しているTrimmed CPIは前年比+6.6%とRBAの物価目標レンジ上限を大きく超えており、継続的な金融引締の必要性を示している。

政策金利は段階的な引き上げが行われてきたものの、まだ3.85%と欧米諸国に比べれば低い水準であり、物価推移次第では数回の追加利上げも考えられると思われる。

Data Source : Australia Bureau of Statistics

ニュージーランドのインフレ状況

NZのインフレ状況はAUSのそれと大よそ同じような状況にある。

インフレにピークアウトの兆候こそみられるものの、前年比上昇率は+6.7%ほどであり、依然としてRBNZの物価目標上限レンジを大きく超えている。

食品価格の上昇ペースには鈍化がみられず、一般家計の状況は厳しい状況が続いているものと思われる。

政策金利に関しては、AUSと状況が異なり、既に5.25%まで引き上げていることから、追加利上げとなると実体経済を過度に冷え込ませないように考慮しつつの難しい舵取りが求められよう。

Data Source : Stats NZ

カナダのインフレ状況

他の主要先進国に比べて政策金利を早めに引き上げてきたこともあってか、インフレ率の抑制には最も成功している国といえるかもしれない。

CPI及びコアCPIの前年比上昇率は4~4.5%の範囲内まで鈍化している。

政策金利は2023年1月に4.5%まで引き上げてからは据え置きの状態が続いているが順調にインフレ率が低下してきている。引き続き数ヵ月間は政策金利を高い水準で維持する必要はありそうである。

Data Source : Statistics Canada