米国債利回りは異常なまでに低下。原因はTreasury供給減と金余りか?

COVID19からの経済指標上の回復が見られる一方で、米国債利回り異常なまでの低下をみせている。

ここ最近のCOVID19感染者数が米国を含めた先進諸国で再度増加傾向となっていることが、市場参加者のリスク回避的な動きを引き起こしている可能性はある。

しかし、先日のFOMC後のパウエル議長の発言では、パウエル議長でさえも、この利回り低下に関する明確なコンセンサスはないものと発言をしており、この利回りのシャープな低下の理由は不明確である。

そこで、COVID19感染者増以外の要因も含めて総合的に利回り低下理由を考えたいと思う。

米国債利回りの現状理解

まずは前提となる米国債利回りのおかれている状況を確認しておく。

名目金利の構成要素の変動確認

フィッシャー方程式が示す名目金利の構成要素である実質金利と予想インフレ率の動きを確認する。

名目金利=実質金利+予想インフレ率(ブレークイーブン・インフレ率:Breakeven Inflation(BEI))

Data Source : FRB

上の二つのチャートの通り、BEIはここにきて若干ではあるが上昇しており、7月の最低水準を下抜けるような動きはみせていない。
一方で、実質金利側が大きく低下していることがわかる。(BEIは実質金利と名目金利から逆算されている点には注意)

分かりやすいように10年米国債利回りに注目して、実質金利とBEIとをチャートにすると以下のようになる。

Data Source: FRB

10年TIPSの利回りは2021年1月の最低水準-1.08%さえも下抜けるまでに低下している。

これらのことから、名目金利の低下の大きな要因は将来の予想インフレ率の低下というよりは、実質金利の低下によるものであることがわかる。

米国債利回り低下 – 需給面からの考察

実質金利を引き起こす一つの要因として考えられるのは、前述のようにCOVID19感染者増加による市場心理の悪化とそれに伴う安全資産への資金流入が考えられる。これに加えて、QEによる米国債(Treasury Securities)吸上げと市場への資金供給・それによる市場での膨大な資金余剰、米国政府の債務上限復活と米国債供給減からなる需給の逼迫が利回りを低下させる要因になっている可能性があろう。

需要面

市場の資金余剰を示すデータとしては、FRBのリバースレポの残高の増加があげられる。
1兆ドルを超えるほどまでに積みあがっており、余った資金が行き場を失っていることがよくわかる。

Data Source : FRB

リバースレポ残高は資金余剰の程度を確認するのに役に立つだけであり、米国債の需要を直接示すわけではないが、余った資金の一部が債券市場にも流れ込んでいると考えることは十分できよう。

また、FRBもQE・債券購入を続けており、中央銀行の大きな購入需要も存在する。

Data Source : FRB

供給面

供給面では短期証券を中心にして市場に出回る短期証券を中心に供給量が減少している。

政府債務上限の復活から、今後も国債の供給量が制限されるおそれがあるとすれば、需要増・供給減といった利回り低下しやすい環境が続くことが考えられよう。

Data Source : Fiscal Data – U.S. Treasury Monthly Statement of the Public Debt

以上でみてきたことから、政府債務上限の復活への対応(それに備えた動きとして)短期証券を中心に供給が減少していること、QE実施による中央銀行の国債需要と市場に溢れる緩和マネーによる需要の高まりによって需給が逼迫し、実質金利を大幅に低下させるに至っている可能性があると考えることができるのではないだろうか。