テーパリング・金融正常化時期にとるべき債券ETF投資戦略

米国のテーパリングが近づいてきたこともあり、テーパリング期間中に行うべき債券ETFの投資戦略を検討しておきたいと思う。

リーマンショック後のテーパリングの進展と各アセットの動きを振り返り、現在の状況に当てはめつつ投資対象を検討してみたいと思う。

リーマンショック後の金融政策の変遷

リーマンショック後にテーパリングの期待が高まったのは2013年くらいからであった。

2013年3月 FOMC :テーパリング議論開始

本格的にFOMCメンバーがテーパリングに関しての議論を開始。

FRBのバランスシート縮小について、積極的な売却によるのではなく、債券の満期償還による保有額の低減を図る方向性で話し合いがもたれた。

2月の失業率が7.7%、コアPCEデフレーターが1.6%となっていた。

バーナンキ・ショック

2013/5/22のバーナンキ総裁の議会証言にて、経済状況の改善がこのまま進めば、今後数回のFOMCのうちに債券購入ペースの縮小を行うことになるだろうとの考えを示した。

この突然のバーナンキ総裁の発言をきっかけに、テーパリング期待が急激に高まり、米国債利回りは急激な上昇をみせた。

利回りの上昇と予想よりも早いテーパリングの見通しが発表されたことで、株式指数は大きく値を下げることとなった。

7月17日の議会証言では、失業率が6.5%を下回るまでは政策金利を引き上げない考えを示している。

その後は2013年12月のFOMCにて債券購入額の縮小が発表されるまでは、金融政策自体に変更はなかったものの、テーパリング期待から米国債利回りは上昇を続けた。

2013年12月18日 FOMC:テーパリング・アナウンス

債券購入額を月間850億ドルから750億ドルに引き下げることを決めた。
(国債とMBSの購入をそれぞれ50億ドル縮小)

経済状況の改善が続くことを条件に、その後のFOMCごとに100億ドルずつ買い入れを縮小していくこととした。(2014年9月まで)

2013年11月の失業率が6.9%まで低下していた。コアPCEデフレーターは前年比1.6%とまだまだ低い状況であったが、テーパリング開始を決めた。

この時と比べてみると、2021年のテーパリング・アナウンスまでのコミュニケーションやFOMCメンバーの考えがいかに慎重なものかがよくわかる。

2014年10月29日 FOMC:債券購入プログラムの終了

債券購入額の縮小を続けた結果、債券購入プログラムの終了するに至った。

ただし、保有債券が満期償還となった場合の再投資は継続することとした。

テーパリングをアナウンスしてから債券購入プログラム終了に至るまでに長期国債利回りの上昇はピークアウトし、若干の低下基調にはいっていた。

一方で短期国債利回りは、政策金利上昇を見据えて上昇トレンドを維持。

2015年12月16日 FOMC:危機対応後初の利上げ

債券購入プログラムの購入が終了してから、1年以上経った2015年12月のFOMCにて政策金利・Federal Funds Rateを引き上げることを決めた。

これによってFF Rateのレンジが0.00-0.25%から0.25%-0.50%に引き上げられた。

この時の経済状況としては、2015年11月の失業率が5.1%(10月が5.0%)まで低下しており、自然失業率と考えられていた水準付近まで改善していた。

一方で11月のコアPCEデフレーターは前年比で1.2%しか伸びていない状況であった。

この利上げ後の2016年はイギリスのEU離脱(Brexit)の国民投票、米国大統領選とトランプ氏の勝利という波乱の一年となり、米国の失業率もさらなる改善はみられない状況が継続し、1年ほど次の利上げが行われない状況が続く。

段階的な利上げ期へ

2015年12月に利上げが行われてから1年ほどは続く利上げがなかったが、2016年12月16日のFOMCにて次の利上げが行われてからは、四半期に一度程度のペースで段階的に政策金利が引き上げられることとなる。

そして、2018年末には政策金利が2.25-2.50%まで上昇。

2016年12月から始まった段階的な利上げ時期においては、長期金利・短期金利ともに上昇。
政策金利上昇に伴うものであるから短期金利の上昇のほうがペースがはやく、長短金利差は縮小トレンドをたどった。

ここまでが、リーマンショック後に見られた大まかな金融政策正常化への流れである。

Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics, U.S. Bureau of Economic Analysis

テーパリング時期の利回りと信用スプレッドの変遷

上で確認いただいたテーパリングの流れを念頭に、米国の債券利回りや信用スプレッドの動きを確認してみたいと思う。

ターム別の米国債券利回り推移

2013年12月に実際にテーパリングが始まる前、つまりはテーパリング期待が高まっている時期においては、長期債利回りが大きく上昇をはじめるものの、短期債利回りは低水準を維持していた。

テーパリング開始・債券購入プログラムの縮小が始まってからは、10年債利回りは上昇した水準を維持したものの、上昇を続けるようなことはなかった。

超長期債利回りは上昇するどころか債券購入プログラムの縮小期には利回りが低下していた。

2年債等の短期のものも少しずつ利回りが上がってきてはいたが、明確に強い上昇がはじまったのは2015年12月に危機対応後初の利上げが行われてからである。

段階的な利上げ期には、短期債利回りも政策金利の引き上げに沿うように上昇を続け、長短金利差は縮小した。

つまりは、長期金利の上昇が先行し、その後の政策金利引き上げが近づいたところで短期金利が遅れて上昇をはじめるという動きであったわけである。

長期金利が現在の短期金利と将来期待される短期金利の幾何平均であるとする純粋期待仮説とも整合的な動きといえるだろう。

2021年後半からのテーパリング時期についても同じことがいえるとすれば、債券ETFへの投資を考えるのであれば、短期債ETFに投資しておき(そもそもキャッシュポジションでもいいだろうが)、その後政策金利上昇局面後半に長期債ETFにシフトする流れが推奨されることとなるだろう。(政策金利上昇後半は名目中立金利との関係で判断)

Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System, retrieved from FRED

信用スプレッドの推移

利上げ時期には景気回復・経済成長の時期ともかさなることから、信用スプレッドが縮小する傾向にあるため、信用スプレッドの縮小部分がクッションとなり、社債の価格下落は国債に比べれば小さいものとなるといわれている。

債券価格 = Σ[i=1…n]CFi / (1+名目無リスク金利+リスクプレミアム)i

しかし、リーマンショック後のテーパリング開始時に比べれば、今日のFRBはテーパリングに対して非常に慎重な姿勢を続けており、失業率をはじめとする経済指標にしても、株式やその他のリスクアセットにしても、大きく回復が進んだ状況にあるため、社債ETF等に対する投資判断を行う前には利上げ分を吸収するだけの信用スプレッドが残されているのかを確認しておくべきだろう。

下に信用スプレッドの情報をチャートにしてみた。
見にくいと思うので、それぞれの凡例をダブルクリック・選択して確認してみてもらいたい。

これによれば、現在の信用スプレッドの水準は、投資適格とハイイールド共にリーマンショック後のテーパリングがアナウンスされた2013年12月よりも低い水準にある。

よって、信用スプレッドの政策金利引上げの影響を吸収する力は以前よりも弱い状況にあると考えられる。

Ice Data Indices, LLC, retrieved from FRED

テーパリング時期の債券ETFリターン

テーパリングの変遷、債券利回りや信用スプレッドの動き方を確認いただいたところで、実際の債券ETFのリターンをみてみたいと思う。

ここでのリターンは価格推移ではなく配当等の影響を考慮したものである。

Data Source : Stooq

このSPDRの米国債券ETFのリターン推移をみると、テーパリング前から開始時期には長期国債と長期社債ETFのリターンが悪化したものの、その後の利上げ時期に向けては中長期債のパフォーマンスが改善し始め、2016年12月以降の段階的な利上げ期には中長期債ETFが短期債ETFを大きくアウトパフォームしている。

長期国債と長期社債とのパフォーマンスは、2016年のパフォーマンスを見る限り、金融政策の進展というよりは、その時の経済・政治情勢と市場心理の影響を強く受けているように思われる。

又、短期国債ETFと短期社債ETFとを比較すると、段階的な利上げ期に短期社債ETFが堅調な推移をしている一方で短期国債ETFのリターンは相対的に低調であることから、利上げ期には国債よりも社債のほうがパフォーマンスが良かった。

以上のことから、今後取りうる債券ETFへの投資戦略としては、長期債ETFのウェイトを小さくし、短期債を中心としたポートフォリオにし、利上げ開始後に段階的に中長期債のウェイトを増やすようにリバランスを行うことが推奨されることになるだろうか。

段階的なリバランスは、政策金利が名目中立金利と思われる2.5%前後まで上昇したときに長期債のウェイトが高い水準(8割など)になっているように調整を行っていくことが推奨されるだろうか。

そして、次の経済調整期に金利が低下した場合に金利感応度の高い債券価格(特に長期国債)が大きく上昇し、しっかりとしたリターンが期待できるのではないだろうか。