2022年5月 主要各国のインフレ状況まとめ
- 2022.05.22
- 経済・マーケット
さて、想定通りに日本の4月分のCPIが日銀目標の2.0%を超えてきました。
CPI総合が前年比で2.5%上昇、生鮮食品除くコアで2.1%上昇となった。
日銀関係者や黒田総裁は、景気回復や強い需要によるものではないことを理由に金融緩和の継続が必要と主張を続けておりますが、何にせよ一先ずは日本のCPIが長らく達成できなかった日銀の物価上昇目標に到達したこのタイミングで再度主要各国のインフレ状況をまとめておきたいと思う。
主要先進国中央銀行の物価目標
今回もインフレ状況をみていく前に主要先進国の中央銀行が持つ物価目標を確認しておく。
- 米国:2%(Flexible average inflation targeting)
- EU:2%前後
- 日本:2%
- 英国:2%
- 豪州:2~3%
- NZ:1~3%
- カナダ:1~3%
日本のCPIが2%を超えたことで、ここで上げた主要先進国の物価目標はいずれも各中央銀行がかかげる目標を上回る形となった。
各国のインフレ状況
米国のインフレ状況
米国の4月のCPIは季節調整済み総合で前年比8.2%、コアCPIが前年比6.1%となった。
3月の前年比データよりは上昇ペースが鈍化した形となったが、依然として非常に高い水準にある。
又、前月比でみれば、コアCPIの伸びは3月よりも高くなっており、エネルギーの上昇が落ち着いたことでCPI総合の前月比の伸びが弱かったのかもしれないが、米国のコロナ後の労働市場や消費といった経済状況による物価上昇は今後も続くことを示唆しているのではないだろうか。
Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics
主要項目別にみれば、電気代の上昇は3月と同水準。
食品とエネルギーを除くコモディティの上昇ペースは大きく鈍化した。(依然として高いことに変わりはないが)
一方で食品や住居関連の上昇ペースは加速している。
又、コロナ後のサービス消費の加速によるものか、サービス価格の上昇も堅調である。
ウクライナ・ロシア戦争によるエネルギー価格や資源価格の上昇の影響が剥落するにつれてCPI総合の上昇は弱まってくると思われるが、その他の項目の価格状況が堅調であることからして、米国の物価上昇はエネルギーや資源価格の上昇によるだけでなく、強い米国経済も大きな要因であることがよくわかる。
そのため、FRBとしては経済状況をいくらか冷ますようにいっそう早い金融引き締めが必要となるだろう。
Data Source : U.S. Bureau of Labor Statistics
Euro Areaのインフレ状況
ユーロエリアとその各主要国のインフレ率は米国に比べれば低いものの、コアHICPの上昇ペースは加速している。
しかし、米国とは違い経済状況が飛び切りいいわけではないこと、エネルギー調達をロシアからの輸入に大きく依存していることから、ECBがFRBのように急速な引き締めに動くことはないものと思われる。
ECBとしては、APP(資産購入プログラム)の終了やマイナス金利幅の縮小に動くものとは思われるが、政策金利が大きくプラスになるのには相当の時間がかかるのではないだろうか。
Data Source : Eurostat
日本のインフレ状況
前述のとおり、日本のCPI前年比上昇率はついに2%を超えた。
日本も経済状況がよくない事から、日銀・黒田総裁は引き続き金融緩和を継続する必要があるとの主張を続けている。
確かに米国に比べれば賃金上昇圧力が強まっているわけでも、消費が活発化して需要が高まっているといった良い理由でのインフレは起こっていない。
しかし、インフレの要因がコストプッシュであろうがなんであろうが、年内はCPIの前年比は2%を超えた状態が続きそうであること、円安の継続が続けば輸入物価の上昇が加速するおそればあることから、金融緩和を継続するにしても、その規模はいくらか縮小する必要があるのではないだろうか。
頑固な黒田総裁含め日銀関係者の考えを変えるためには、生鮮食品除くコアCPIの上昇が数ヵ月継続が確認され、前年比2.5%を超えるほどまでの高まりがみられる必要があるのではないだろうか。
(今後も携帯料金下落の影響剥落が続くことから2.5%到達も考えられよう)
いずれにせよ年後半にいくらかの方針転換を期待したい。
何らかの変更をするとすれば10年債利回りの誘導レンジ上限の引上げだろうと思われる。
イールドカーブコントロールのターゲット年限を10年からより短期のものに変更するといった方法も考えられなくはないが、5年債利回りをターゲットにするなどとした場合、10年債利回りの急騰を招き、長期金利の上昇が住宅ローンなどの金利上昇を招くなどの大きな影響を及ぼす恐れがあることから、ターゲット年限の変更はないと思っている。
誘導レンジ上限を自分たちの想定通りの上昇幅にコントロールするほうが政策決定者にとっては安心感が大きいだろう。
又、市場機能の妨げとなっているETF買入も早急に出口を探らなければならないだろうが、ETF買入停止を正式決定となると株式市場がクラッシュしかねないため、この判断をとる可能性は低そう。
どういった方法がとられるにせよ、年後半の緩和規模の変更と為替市場における日本円の転換には期待したい。
(それにしても以前の記事でUSDJPY120.00手前くらいでショートを徐々にいれてもよさそうと書いたことがあったが、結果的には早すぎました。ここまで急激な円安はまったく読めなかった。)
Data Source : 総務省統計局
イギリスのインフレ状況
イギリスはウクライナ問題よりも大分前から非常に強い物価上昇圧力にさらされてきた。
エネルギー価格上昇だけでなく、EU離脱に伴う労働者不足問題によるwage push inflationが相まった米国と同じような状況といえそうである。
イギリスは主要先進国の中では早めに政策金利上昇方向に向かっていたものの、CPIとコアCPIは共に上昇ペースの加速に歯止めがかかっていたい。
主要項目別にみてもペースが鈍化しているものはほとんどみあたらず、引き続き早いペースでの政策金利上昇が必要になりそうである。
しかし、欧州経済のウクライナ・ロシア戦争による悪化が懸念されている中、英国経済も大きな悪影響を受けることが想定されるため、金融政策は米国のそれに比べれば見通しにくい。
通貨としてもGBPは引き続き積極的にロングしたくない。外貨持つならUSDでいい気がする。
Data Source : Office for National Statistics
オーストラリアのインフレ状況
RBA(オーストラリア準備銀行)の物価目標が2~3%と他の中央銀行より高めであり、最もRBAが重要視しているCPI刈込平均は深刻なほどそのターゲットから乖離しているわけではない。
(オーストラリアのCPIは四半期ごとの発表のため、ウクライナ情勢が反映されると状況が大きく変わるのかもしれないが)
インフレ率が物価目標から非常に大きく乖離している米国やイギリスに比べれば、政策金利の上昇ペースは遅いものになるだろう。
又、中国のCOVID-19対策・ロックダウンによる経済の停滞がオーストラリア経済に悪影響をもたらす可能性があることも懸念の一つ。
Data Source : Australia Bureau of Statistics
ニュージーランドのインフレ状況
オーストラリアに比べ、物価上昇ペースは非常に早く、3月までのデータでは原則の兆しは見えていない。
ニュージーランドも主要先進国の中では早いうちに政策金利上昇へと舵を切っていたが、物価上昇に歯止めがかかっていないことを考えると、ニュージーランドも早いペースでの金利上昇が期待されよう。
Data Source : Stats NZ
カナダのインフレ状況
カナダもコアCPIは3月に比べれば4月の前年比伸び率は減速した。
しかし、米国ほどではないものの、非常に高いインフレ率が続ていることに変わりはなく、引き続き政策金利の上昇が続くことはほぼ間違いない。
Data Source : Statistics Canada
その他新興国等のインフレ状況
今回は面倒なので各新興国ごとのインフレはまとめないが、OECDのデータから主要各国のCPI伸び率を取得し、可視化しておく。
トルコは段違いの伸びのため、凡例からオフにしてその他の国を確認して欲しいが、いずれの国もインフレ率は高まっていることがよくわかる。
どこの国も政策金利の引上げ等でインフレ抑制に動く必要があることを示唆している。
又、政治状況が先進国に比べて不安定な新興国では、食品価格やエネルギー価格の上昇は社会的な不安・治安の悪化につながる可能性があり、引き続き注意が必要となろう。
Data Source : OECD
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