2023年の日銀の政策転換と方向を考える

今まで日本の経済指標についての記事や日銀の政策に関する記事において必要と主張し続けてYCCの調整がようやく12月の日銀の金融政策決定会合において決定した。

これの決定によりYCCによって調整する10年債利回りの上限レンジが0.25%から0.50%に拡大されることとなった。

ようやく日銀が必要な方向で政策の調整を始めた大きな一歩だとみることができる。

この動きが来年の黒田総裁退任後にどのような広がりをみせるのか現在の情報をもとに考えてみたいともう。

政府発言及び日銀金融政策決定会合における意見

まず、前提として今回のYCCのレンジ拡大調整が大規模緩和政策の取りやめに向かうものでないとの発言及び認識が黒田総裁及び財務省から示されている。

金融政策決定会合における主な意見によれば、財務省及び内閣府の意見は以下のとおりである。

「本日、ご議論いただいた内容は、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。」

「今回議論のあった事項は、物価安定目標を実現する観点から、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。その政策の趣旨について、対外的に丁寧に説明することが重要である。」

一方で日銀と政府の政策協定(アコード)の見直し論が噂されるようになってきている。
2022月12月26日月曜日の岸田首相の発言では「来年4月の段階の状況に最もふさわしい日銀総裁を選んだ上で、その総裁とともに、その状況をしっかり判断して物事を考えていく」との発言があった。

最近の岸田首相や政府関係者からの発言を聞く限り、表向きには政策協定の修正を明言するには時期尚早としながらも、政策の転換を模索し始めている状況が表れているように思われる。

また、日銀の金融政策決定会合における主な意見においては、下記のように金融政策の調整を積極的に認めるようなものもみられた。

「わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にある。ただし、債券市場の機能度が低下しており、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼし、金融緩和の効果の波及を阻害する惧れがある。」

「債券市場の機能度が低下する中で、投資家のセンチメントが慎重化し、社債金利のスプレッドは拡大している。発行金額・件数面を含めれば、社債の良好な発行環境は維持されているとみられるが、注意を要する状況にある。」

更に黒田総裁の有力な後任候補である中尾氏は、今回のYCCのレンジ拡大が将来の政策変更を容易にするとの考えを示している。

これらの政府関係者・岸田首相や日銀関係者の意見を見る限り、現在の金融政策の修正の必要性が広く認められてきているものと思われる。

しかし、政策調整の範囲についていえば、金融政策決定会合における意見や黒田総裁の発言にもあるように、大規模緩和が終了するものにはならないだろう。

今後も政府の財政は大幅な赤字が継続するものと思われ、その国債の受け皿として日銀は非常に重要な存在であることから、YCCの調整・廃止、マイナス金利からの脱却以上の調整は難しいと思われる。

(はじめにETFの買い入れプログラムの停止を行うことが望ましいだろうが、停止を明言すれば株式市場が大荒れするおそれもあることから残したまま実質購入停止する現状がのぞましいようにも思われるため、ETF停止よりもYCCやマイナス金利廃止のようが容易な修正と考える。)

主要経済指標からみる経済政策の行方

下記グラフの通り、物価上昇率は日銀の目標とする2%を大きく超えている状況にある。

Data Source : 総務省統計局
*上のチャートは端数処理後の指数から前年比の上昇率を計算しているため、端数処理前に計算されている前年比伸び率と数値にずれがあるため、流れをみる参考としてチャートを確認されたい。

一部の方々が米国のコアCPIと同じ食品及びエネルギーを除く総合指数の伸びではまだまだ低いと主張していることもあるが、そもそも日銀の主としてみているとしてきた指標が総合指数及び生鮮食品を除く総合指数なのである、現状は目標を大きく超える物価上昇が続いているといえる。

ただし、通信費の上昇部分が来年の4月くらいから弱まってくるだろうこと、原油価格は現状のWTI80ドル前後での動きが継続するものとすれば、来年半ばくらいからCPIの伸び率は徐々に弱まってくるものと思われる。

しかし、下記のいくつかの理由から、日銀が想定するほど早くインフレ率がすぐに2%を下回ることはないのではないだろうかと予想している。

理由の一つが、中国のロックダウン解除である。中国のロックダウン解除はエネルギー価格の高止まりの要因となるであろうし、本格的に中国人の海外旅行が再開となれば、日本をはじめとする周辺国に多少なりともインフレ要因として寄与するものと思われる。

また、ウクライナ・ロシア戦争の長期化によるエネルギー価格の高止まり、米国及び欧州の人手不足状況が続いていること(多少なり米国の労働市場に弱さがみられはじめているように思われるが)などからもインフレ率低下を楽観的に期待するには早いだろう。

輸入物価についても、エネルギー価格要因や円安要因での上昇は落ち着いてくるだろうが、世界各国は強い物価上昇圧力に晒されている最中であり、輸入物価の上昇が続くことに変わりはないだろう。

比較的高いインフレ率(2%を超えた状態)が続くことで実質可処分所得は減少していく危険性が大きく、日本経済の状況は大規模緩和の終了を迎えられる状況にはないだろう。

これに関しては黒田総裁らの考えは正しいように思う。
実際12月に発表された10月の実質賃金は前年比で-2.6%(確報値は-2.9%)と大きく減少した。

Data Source : 厚生労働省

ただ、自国経済が緩和を必要していることだけを見て、目標を超えるような比較的高いインフレ率を放置したり、他の主要先進国との金融政策格差を無視して大規模緩和を調整しないというのも間違いであることは、2022年に自国通貨や日本国債市場をどれだけ棄損してきたかをみれば明らかであるし、あれだけ頑固であった黒田総裁も政策変更に追い込まれずにはいられなかったわけである。

同じ間違いをして自国通貨や国債の信用を失わないよう、今後も過度で副作用の大きな緩和策の修正が必要な状況が2023年も続くものと思われる。

以上のことから、2023年は大規模緩和を基本的には維持しながらも、2022年に招いた自国通貨及び国際市場の信用の棄損といった大きな失敗を繰り替えさないためにYCCのレンジをもう一段引上げる等の調整を行いながら、最終的に廃止に向かっていくべきだろう。また、物価状況によってはマイナス金利からゼロ金利への移行も必要になってくるものと思われる。

2023年の金融政策と為替

もし、日本の金融政策が上記予想通りとなれば、日本は異常な緩和状態からは脱却に向かうこととなる。
そして、米国の利上げ停止と、それに加えて米国の景気後退が強く意識され、将来的な利下げの織込みが進むようであれば(来年の利上げ停止の可能性は非常に高いが、利下げ織込みは今のところ可能性そこまで高くないか?)、金利政策格差が縮小することをもってUSDJPYの大きな修正が続くことが期待できよう。

そのため、引き続き2023年には円高方向予想を維持、USDJPY110.00を目指した動きがみられるものとみておきたいと思っている。