2022年10月1日 先行指標からみる米国経済状況
物価上昇が止まらず、政策金利上昇ペースにも鈍化はみられない。
ウクライナ・ロシア戦争による欧州経済の低迷・資源高、中国がCOVID19への対応として続けているロックダウンによって世界経済にはリセッションが近づいてきている。
米国経済はすでに2期連続のGDPマイナス成長を記録しており、2022年3期はプラスかもしれないが、すでにテクニカルリセッションに陥ったとみることができる状況であり、現在の世界経済の状況を鑑みれば来年にも誰もがみとめるような米国経済のリセッションが訪れてもおかしくないだろう。
今回も米国の先行指標を中心に確認をしながらその近づきつつあるリセッションと現在の経済状況との時間的距離や投資戦略について簡単に考えてみたいと思う。
主要先行指標の確認
長短金利差と実質金利
ほぼ確実に将来のリセッションを予測してきた長短金利差の逆転は、マイナス幅を拡大し続けており、10年債利回りと2年債利回りの逆イールドはITバブル崩壊による景気後退前にまられた水準にまで拡大している。
逆イールドになってから数か月から数年後には景気後退に陥る傾向がみられるため、来年の景気後退への警告と受け取ることができよう。
Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System
実質金利についてはコロナ前に見られていた1.00%前後を回復したと思ったら非常に速いペースで上昇をつつけ、10年の実質金利は1.6%を突破している。
実質金利の上昇は企業の資金調達コストを上昇させることなるが、ここまでの急速なペースでの上昇が続くようであれば、財務状況が悪化する企業が増加してもおかしくないだろう。
また、投資資金の調達コストの上昇によって投資を控える動きも出るものと考えられ、米国経済が冷え込ませることになると思われる。
Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System
ミシガン大学消費者信頼感指数
ミシガン消費者信頼感指数は7月にみられた最低水準からは回復してきたものの、依然としてリーマンショック時にみられたような低水準での推移となっており、高インフレが続く中で消費者のマインド低迷が続いていることを示唆している。
原油価格が下落傾向になってきたことから、これ以上の消費者マインドの低下はないかもしれないが、インフレ率の高止まり状況にあっては消費者マインドが早いペースで回復するとは考えにくく、米国の消費を抑制することになりかねないだろう。
Data Source : University of Michigan retrieved from FRED
航空機除く非国防資本財受注
設備投資の先行指標となる本指標では、前月比の伸びが極端に高いということはないものの安定した状況が続いており、今のところは利上げによる設備投資への悪影響はみられていない。
しかし、前述の通り、実質金利が急激に上昇してきているため、その影響がこちらの指標でもみてとれるようにならないかには注意をしていく必要があるだろう。
Data Source : U.S. Census Bureau
建設許可件数・着工件数
許可件数は減少傾向が継続しており、将来の住宅需要には不安が残る。
着工件数については8月には持ち直しもみられたものの、現在の住宅ローンの急激な上昇を考えれば長く続くとは考えにくく、住宅市場の指標としては更なある悪化が予想される。
すでに販売件数は住宅ローン金利や住宅価格の上昇を背景に減少傾向がみられており、この傾向は今後も続くと考えられよう。
Data Source : U.S. Census Bureau
Data Source : Freddie Mac
新規失業保険申請件数
新規失業保険申請件数は4月から7月にかけて上昇傾向にあったが、8月以降は減少に転じており、米国の労働市場の底堅さを示している。
しかし、一方で賃金上昇による物価上昇(wage push inflation)が継続することも意味しており、必ずしも強い労働市場が現在の米国経済にとって全面的に良い効果だけを持っているわけではない点には注意が必要だろう。
Data Source : U.S. Employment and Training Administration
フィラデルフィア半導体指数
ハイテクの先行指標として注目される半導体指数についても下落基調が続いており、コロナバブルの崩壊が継続していくことを示唆しており、ITセクター株式を中心に厳しい状況が続くことが予想される。
バルチックドライ海運指数
鉱物資源や穀物等の乾きものを運ぶ貨物船の需要を確認するために有用なバルチックドライ海運指数については、2021年に急騰していたが、直近の値はコロナ前の平常時に近い値に戻ってきており、この海運指数の状況からは供給制約の落ち着きや資源価格の上昇に歯止めがかかることを示唆していると考えることができよう。
NY連銀が発表している世界供給制約指数も世界の供給制約の緩和が示唆している。
・バルチックドライ海運指数
先行指標全体の解釈と運用方針
長短金利差や実質金利といった金利関連要因や消費者信頼感を中心に将来の景気後退が近いことを示唆するものが多く、状況は悪くなってきているように思われる。
住宅市場についても住宅ローン金利の急激な上昇と住宅価格の高止まりから販売件数の減少は今後も継続することになるものと思われる。これは住宅購入をあきらめた消費者の賃貸需要を増加させることになるため、家賃の上昇を通じて物価を押し上げることになるかもしれない。
労働市場については上述の通り失業保険申請件数の改善がみられたことから底堅さが見受けられるが、これは早いペースでの賃金上昇が継続することを示唆しており、インフレ率の高止まりに寄与するものと思われる。
一方で原油価格のピークアウトやバルチックドライ海運指数の動きにみられるように資源価格の上昇は一先ず停滞すると思われるため、今後の物価上昇の主な要因は住宅市場要因や労働市場要因、その他の食品価格等の動きなどにシフトしてくると思われる。
従って、原油等を含んだ物価上昇はピークアウトと思うが、より広い品目での物価上昇率の高止まりが考えられる。
そして、この物価上昇を冷ますためにFRBの政策金利引上げも早いペースで継続、実質金利の上昇は継続するものと思われる。ただし、実質金利の上昇の裏ではブレークイーブン・インフレ率に低下傾向がみられ、5年と10年のブレークイーブン・インフレ率はそれぞれ2.14%と2.15%まで低下してきている。
急速な政策金利引上げが続くことで中期的にはインフレ率が急低下することが織り込まれていることがわかる。これは経済が冷え込むことの織り込みともいえるだろう。
Data Source : Board of Governors of the Federal Reserve System
以上のことから実際の運用について考えてみると、
まず債券に関しては、BEIの示す中期的なインフレ率の落ち込みや先行指標の悪化が示唆する景気後退を考えれば、長期債及び超長期債については金利上昇に落ち着きがみられたところで投資する魅力は十分にあると考えている。
個人的に目安にしてきた10年債利回りが3.5%を超えたところで検討をはじめたが動きが激しくまだETF購入に至っていない。このあたりで金利がうろうろするようなら少しずつかいを入れるつもり。ただ超長期債はFRBのバンスシート縮小がイギリスで起きた債券市場の混乱と同じことが起こらないか少し不安に思われるため慎重に判断したいと思う。
次に株価について考えてみると、S&P 500のPERがリーマンショック後の相場での平均あたりまで落ちてきたなどという話もあるが、実質金利の上昇継続が予想されることからまだ適切な価格には至っていないと思っている。企業収益予想を維持するとしても3400付近までの下落、来年の景気後退や金利上昇による企業収益低下を加味すれば3000付近までの下落がみられたところで買いに入っていくくらいがよいのではないかと思っている。
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